09:聖なる歌





 何処ともしらない森の道。
 奇妙なほど静かなのに、何故か騒がしく感じる場所だった。



 内側からじわじわと。
 未知のものに出会う恐怖。





「顔色が悪いわ」





 少女はそう言って、少年を覗き込む。
 少年は大丈夫、とは言わなかった。



 確かに気分が優れなかった。
 疲れているようには思っていなかったし、変なものを食べた記憶もなかったのに。
 とにかく気だるさが纏わり着いている。
 少女は少し休みましょう、と少年の手を引いて木陰へ移動した。



 少女が濡らした布を額にのせた。
 心地良さとは裏腹に、騒がしさは増して行く。



 しばらくそこで休んでいると。
 実際に声が聞こえてきた。
 森の奥から近付いて来る。



 顔を上げる。
 1人の女性が歌いながら歩いて来た。





「良い歌でしょう?」





 女性は誇らしげに言う。
 力強く、他者を阻む、孤高の歌。
 荘厳で、雄大な、清き歌。





「これで死神の力を清めているの」





 女性はその歌で浄化をしながら旅をしているらしい。
 英雄の子孫が退治しに向かった、悪い者。
 それが「死神」。



 死神と言うそれは魔であるから。
 聖なる歌でその力を弱めるのだという。



 女性はそこで断わりなく1曲唄った。
 満足して、女性は去っていく。



 その後姿を2人見送る。
 見えなくなって、先にほっと息を吐いたのは少女だった。





「私はあまり、あの歌は好きじゃない」





 少女はそう呟くと、囁くように旋律を口ずさむ。
 優しく、儚く。
 まるで眠りへと誘うように。



 それはきっと子守唄。
 この地の子が聞き育っただろう、子守唄。
 しかし何故だろうか。
 少年にとってそれは懐かしく思わなかった。



 むしろとても新しく。
 少年の心に響き続けた。