10:英雄の恋人
取り立てて、何の変哲も見当たらない小さな村。
そこは英雄の故郷だという。
国を創った立派な英雄も、最近旅立った英雄の子孫もここで生まれたそうだ。
だから、何だという訳でもない。
会った事も、見た事もない人。
そんな他人の故郷に思いを馳せる少年ではなかった。
しかし。
ここが、少女の、隣に歩く少女の故郷である事は、無視出来ない。
無視したくない事であった。
「懐かしいの?」
少年は尋ねた。
その感情をすべてを忘れた少年は知らない。
でも、人は故郷に帰るとそう言う気持ちになるのではと思ったから。
「そうでも、ないわ」
少女は珍しく無機質にそう答えた。
本当に感慨などないように。
そんなものなのかな、と少年は納得した。
それでも。
少女が懐かしくなくとも、村にとってはそうでもなかった。
「よく帰ってきたね。あの子は見つかったかい?」
村人は、少女を見つけて気楽に話しかけてくる。
「自分も英雄になるだなんて言って、帰って来ないなんてね」
その言葉を聞いて、少年ははっとした。
建国祭で聞いた、立派な英雄と、その子孫の話。
英雄の子孫は、悪を。
唄い人の言う、死神を倒しに旅立ち、行方不明になった。
そして少女の目的。
言うべきことを言う為に、人を捜している、と。
「捜しているのは、英雄?」
英雄の子孫?
少年の問いに、少女は頷いた。
少女の目的。
言うべき事を、言う相手。
何を、何の為に。
独り、跡を追うほどに。
「英雄」は彼女にとっての何なのか。
それは、それはひょっとして。
「それは、恋人という事?」
そう確認したその時。
自分でも、泣きそうな顔をしているだろう事が解った。
そのくらい、泣きそうだった。
そのくらい、悲しかった。
自分自身で理解出来ないほど。
したいとは思わないほど。
何故かこの少女の隣に、自分以外を置きたくなかった。
在るはずないと思っていた。
それは都合の良い、勘違いだったのだろうか。
夢見がちな、自惚れだったのだろうか。
「全然違うよ」
少女は言った。
英雄とはありきたりな幼馴染だったと。
「探しているのは、彼」
同郷で幼馴染で英雄の子孫で、行方不明者。
「でも、恋人なんかじゃない」
少女は少し、嫌悪感を込めた。
その気配に少年は、少しだけ安心した。
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