06:不器用な魔法使い





 少女が地面に円を描いた。
 内に更に円を描き、そこに文字や模様を書き足して行く。
 魔方陣が完成した。



 魔方陣の真ん中に木の葉や小枝を置き、少女は目を閉じる。
 精神集中。
 そして、少女は何かを呟いた。



 一瞬遅れて葉や枝が燻り出す。
 やがて、火になり炎になり。
 それが完全に燃え上がった瞬間、炎は塊になり魔方陣の中央に浮いた。





「これで、野犬も心配要らないの」





 少女が披露したのは「魔法」。
 魔方陣、物質、呪文。
 すなわち、意味、源、発動。
 それらを基本とするこの地でとても一般的な魔法である。



 煌々と燃える炎。
 魔方陣の上で存在するそれを見ながら、少年が呟く。





「これ、僕にも出来るかな?」




 少女はその問いに、一瞬きょとんとした。
 しかし、すぐに優しく笑う。





「教えて上げるね」





 魔方陣の前に呪文と精神集中の練習だと言い、少女は少年の隣に座った。
 少女が手を組み、目を閉じたので少年も真似る。
 そして、言われるがまま、炎の生まれ出でる瞬間を想像した。



 次の瞬間。
 何もない、少年の目の前が赤い炎で染まった。
 それは、何が燃えたというよりも、炎が何処からか現われたような。
 それほどまでに不自然な、炎。
 少年が驚いていると、炎は何事もなかったように消えていった。



 前髪が少し焦げてしまった。
 顔も煤だらけだった。



 放心している少年の顔を、少女は濡らした布で拭いてくれる。
 拭き終わると髪を見て、少し切らなきゃ、と囁いた。
 そして、続ける。





「あなたは「魔法使い」なのね」





 「魔法使い」は能力の名称。
 手順を踏まなくても、無から魔法を生み出す特殊な才。
 先天的にしか身に付けることが出来ない、異能。



 それは、とてもとても、珍しい事だと言う。



 少年は、思わず自分の両手を見た。
 手は別に、特別何という訳でもない。
 だが、溢れ出た未知の力。
 とても、怖くなった。
 とても、恐ろしくなった。



 名前をなくす前の自分は、このことを承知していたのだろうか。
 もし、これを自在に使っていたら?
 もし、これを自在に使えていなかったら?
 それはどんな自分だったのか。



 怖い。恐い。
 そんな自分と出会うのが、嫌だ。
 名前なんて、取り戻したくない。



 でも、しかし。
 少女は怯える少年の手を取った。
 そして、口を開く。





「とても、凄い力を持っているのね」





 更に、素敵ね、と続けた少女の言葉。
 その言葉を聞いて。
 現金にも。
 やはり、自分の名前を捜そうと思った。