04:遠い記憶
霞め落ちる記憶。
それはいつのものだったか。
昨日か一昨日か。
1年前か。
10年前か。
生れ落ちる前か。
世界よりも前か。
とても、遠い。
とれも、暗い。
ひたすらな記憶。
そこには何もない記憶。
前も後も。
右も左も。
上も下も。
表も裏も。
外も内も。
何もない。
赤も青も。
白も黒も。
光も影も。
陰も陽も。
動も静も。
何もない。
喜も怒も。
哀も楽も。
愛も憎も。
聖も邪も。
生も死さえも…――
そこに存在はしなかった。
とても、暗い。
とても、遠い。
そんな記憶。
在るのは、否、忘れてはいないのは言葉だけ。
そこに意味などないのだから。
存在だってしないのだから。
「ああ、だから僕は…」
それは音にすらなかなかった。
しかし、目覚めのきっかけだった。
朝の木漏れ日が眩しい。
目をこすって、少年は起き上がった。
あれは、何の夢だったか。
過去の暗示か。
今の暗示か。
未来の暗示か。
何にしても、何にもならない。
そんな記憶と一緒に、少年は顔を川の水で流した。
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