03:建国祭





 統一の日。
 始まりの日。
 国の誕生日。



 建国祭のこの日。
 街では溢れんばかりの人々が、唄い、踊り、酒を酌み交わしていた。



 大勢に驚き目を丸くした少年はと言うと。
 人々に流され、気が付けば振舞われたのだろうチーズを握り締めていた。
 今は、人の少ない通りの端に逃げ込み、硬いチーズを齧っている。
 街の賑やかさは、留まることを知らない。



 もちろん、まったく見覚えのない顔ばかり。
 逆に誰も、少年のことを知らない。
 ここに、少年の名前はないようだ。



 調子の良い音楽。
 乾杯の音。
 年齢も性別も問わない、人々の笑い声。



 それらを近くから。
 でも遠い目で少年は見ていた。





「おや、何も持っていないじゃないか」





 声がして横を見ると、恰幅の良い中年女性が少年を見下ろしていた。
 女性はすぐに葡萄酒の入った杯を彼に渡す。
 更に、パンやチーズの入った籠を押し付けた。



 礼を言い、そして少年は続けた。





「どうして、こんなに賑やかなのですか?」





 女性は迷いなく、胸を張って答える。





「立派な英雄様がこの国を創った日だからさ」





 女性はそれから、英雄の偉業を語り始めた。



 昔、この地には独裁政治を行う悪い王がいた。
 力にものを言わせ、次々と善良な人々を処刑していった。
 そこに立ち上がった1人の若者。
 彼は並み居る兵を蹴散らし、とうとう王の手から国を奪い取った。
 そして、国は立派な英雄の下、新しい1歩を踏み出した。



 だから、今日は英雄に感謝と祈りを捧げる日。
 女性はそう締め括った。





「それにしても、皆とても祈りを捧げているようには見えないです」





 少年は正直に言った。
 通りを埋め尽くす人々は、何か必死に楽しんでいるように見える。



 女性は、その指摘に顔を曇らせた。





「皆きっと、不安を忘れようと必死なんだよ」





 そして再び語り始めた。



 今、この地には悪いことを企む悪い奴が現われている。
 そいつの正体は解らないが、色々な場所で人々を恐怖に陥れている。
 そこに立ち上がった1人の若者。
 彼は立派な英雄の子孫で、魔から国を救おうと果敢に旅立った。
 そして…



 行方が解らなくなった。



 今だ旅を続けているのか、それとも倒されてしまったのか。
 それすら解らず、ただただ街の人々は不安な日々を過ごしているそうだ。



 でも英雄様の偉大な加護があるから、大丈夫。
 女性は、そう締め括った。



 女性の話が終わると、少年はまた喧騒に目を向ける。



 世の不安を誰かに背負ってもらって、それでも不安な人々。
 真っ直ぐに不安に立ち向かえない人々。



 始まりの日。
 少年は独り、知らない立派な英雄に祈りを捧げた。