恋人遊び 3
「…で?」
 私は問うた。
 目の前には何かを訴えるような瞳。
 目で語るという言葉がある。
 その言葉通り、この瞳さえ見れば何を言いたいかなんて解るよな、的な瞳。
 そしてどんな人間だってきっとこの瞳には逆らえない。
 とても魅力的。
 しかし、私は敢えて逆らう。
「言わないと、解らないのよ」
 瞳で解って貰おうなんて、傲慢な考え。
 私はあなたの考える通りに動いてなんてやらない。
 しかし、はっきりと言ったのにも関わらず、相手の態度は変わらない。
 まるで信じているよという態度。
 自分を信じきった瞳を逸らさない。
「だから…」
 私に何を言わせたいのか、そんな事は解りきっている。
 でも、今まで彼が接してきた人たちと同じとは考えてほしくない。
 黙っていると、彼はちらりと窓の外を見た。
 今日はかなり良い天気だ。
 快晴と言っても差し支えない。
 爽やかな青色が広がっている。
 それをお互い確認する。
 そして彼は再びこちらを見た。
 解っているよねと言うように。
「だから、お願いがあるならそれなりの態度が…」
 更に私は食い下がる。
 しかし、相手は良く心得ていた。
 今まで保っていた距離を一歩詰め、私に近付く。
 その手を私の膝にそっと乗せる。
 そして駄目押し。
 その瞳を潤ませて、微かに首を傾げた。
 …
 玉砕。
「わ、解った!降参!」
 そう言って立ち上がった私に、彼は喜びを顕わにした。
 勢い良く私に抱き付く。
「私はもう、あなたには敵わないわ…」
 私はそう呟いて愛しい彼を抱きしめた。
「犬相手に何やってんのさ」
 水を差すのは冷めた声。
 振り返ると声以上に冷めた瞳の年下のいとこ。
「犬に彼って言うな。それに抱き付く、じゃなくて飛びつく」
 訂正された。
「散歩に連れてって甘えるの。この技、人間も見習うべき。強すぎるわ。
 飼ってるつもりが、いつの間にかこちらが捕らえられてしまう…それはあたかも…」
「あー、はいはい、現実に戻って来な。
 たかが3日預かる事になった犬ごときに何心奪われてんの」
 腕の中のチワワはそこに立ついとこの家犬。
 家族まるごと海外旅行に行く事になったため、少し預かることになったのだ。
 その本来の飼い主は相変わらずのクール発言。
「彼をごとき、とか言わないでよ」
 かたや某CMさながらにすっかりチワワにめろめろになった私。
 自分の魅力を解りきっている愛玩動物は瞳をうるうるさせて散歩を強請る。
 口元を緩めながら、私はリードを手にした。
「ここに人間の男がいるってのに…」
 いとこはため息を吐いたが、聞こえないふりをした。
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