恋人遊び 4


 世にも奇妙な生き物がいる。
 簡単にその生物の特徴を挙げてみることにする。





 生態その1。
 2匹で1匹。
 1匹ではどうしてもなりえない。



 生態その2。
 昼夜問わず行動。
 暗いとか明るいとかは関係ないらしい。



 生態その3。
 日本中に生息。
 寒いところでも暑いところでも。
 屋内でも屋外でも元気である。



 生態その4。
 河原に行くと等間隔に並ぶ。
 一部地域に見られる現象。



 生態その5。
 世間一般的に嫌われる傾向にある。





「ひゃっ!?何すんのよ!」

 冷静に分析していた私の頬を、衝撃的な冷たさが襲った。
 振り返ると、ベンチごしの背後に年下のいとこ。
 手にはコンビニのアイスの袋。

「アイス買って来いって言ったよね?」
「あ、安いやつだ。ケチ」
「人をパシっといて酷い言い草だよね」

 しぶしぶアイスの袋を手にした私は、早速開ける。
 値段の割には悪くない、柑橘系の甘さが口に広がった。

「あんたが、私の使ってた参考書どれ、とか訊くから付き合ってあげたんでしょ」

 このくらいの対価は当然だと私は思う。
 しかしながらいとこは、溜息混じりに言葉を吐く。

「捨てないで残しといてよ」
「合格発表と同時にすべて捨て去ったわ」
「それは潔のいい事で…」

 ややげんなりとしながら、彼は私の隣に座る。

「んで。今日は何やってたの?」

 彼は周辺を軽く見渡してから、首を傾げながら問うた。

「バカップルの生態観察」

 即答した私に、いとこは酷く怪訝な表情を向ける。
 しょうがないので、私は具体例を指差して続けた。

「バカップルは最早そういう「生物」なのよ」

 向かいのベンチにはお膝抱っこで談笑する男女。
 この蒸し暑いのに何故膝に乗らなければならないのか…それは誰にも解らない。
 恐らく本人たちにも解らないのではないのだろうか。

「むしろあんたの方が馬鹿だろ」

 哀れみすら込めた瞳で呟かれて、それでも私は譲らない。

「奴ら京都の加茂川沿いに等間隔に並ぶのよ!?
 それをそういう性質をもった生物と呼ばず何だと言うの?」

 あれは見たことのある人しか解らない異空間だ。

「…バカップル」

 さすがにそうとしか答えられないらしい。
 この冷めたいとこにすら超えられない壁はある。

「あー…でもマジであの気持ちは理解できないわ。
 何が楽しくてああやって人前で馬鹿っぷりを見せ付けられるのか。
 あ、見て!手ぇつなぎながら自転車乗ってるわよ!?
 危険すら顧みないとは…」

 私は半ば恐怖すら感じながら独りごちた。
 隣からも何かそれについての発言が出るかと思ったが、しばしの沈黙。
 何か考えているらしいいとこは、少ししてからそれを述べ始めた。

「でもさ」
「ん?」
「何も知らない人から見たら、見えたかもよ」

 何のことかまったく解らず、私は先程のいとこのように周囲を見渡す。

「何が…?」

 幽霊でも居たのだろうか。
 本気で解らない私に、彼は短く言った。

「僕らが、バカップルに」

 更なる沈黙。
 アイスを頬に付けられて、驚かされたシーンが蘇る。
 それを傍から見た図に置き換えた。



 浅く怒りながらじゃれあうカップル。
 …。



「そこまで嫌な顔しなくても」

 顔を顰めた私にいとこは呟いた。






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