恋人遊び 5
「最近寝付きが悪いのよね」
眠りにつく為の条件を挙げてみる。
快適な枕。
柔らかな布団。
精神的なゆとり。
肉体的な疲労。
光無い暗闇。
痛くない程度の静寂。
深夜という時間。
これだけあれば、パーフェクト。
騒音だらけの電車の中でも。
窮屈な講義中でも。
いつの間にか眠れるほどで、神経質な人間でもない。
しかしそんな条件でも眠りにつけるというのに、眠れない。
パーフェクトな条件でも眠りにつけない時がある。
「布団に包まってるのに寝れないって、何か悔しいでしょ?」
年下のいとこは、そういえばそういう事もあるかも、という程度には頷いた。
「癒し系音楽聴くとか、何かないの?」
「それは実践済み。でもフルで聴き切った事あるし」
残念ながら100%寝れる術という訳ではない。
逞しい妄想力で、作曲者の作曲時の心境まで考え出した事もある。
「でも基本的に退屈なら絶対寝れるかな。特論Uとか即寝だし」
週一講義で、よくもこんなにつまらない話が出来るのだろうと疑問に思う。
因みにその教授、有名RPGの眠りの呪文から、
内輪で「ラリホーマのおっさん」と呼んでいる。
口を開くだけで、講義室内即睡眠。
「その講義を録音して夜流す、とか」
「駄目。あの教授の声を聴きながら家で幸せに眠るのは何か嫌だ」
夢に出たりしたら、絶対目覚めが悪過ぎる。
変なトラウマとかになりそうだ。
という訳で、プラン2も却下。
「じゃあさ、添い寝してくれる彼氏でも作ったら?」
ふと、真剣な眼差しでいとこは提案した。
「精神的な拠り所、そして人の温かさを感じながら、
それなら安らかな眠りにつけるとか」
「…コイビト、ね」
一応想像してみる。
快適な枕。
柔らかな布団。
精神的なゆとり。
肉体的な疲労。
光無い暗闇。
痛くない程度の静寂。
深夜という時間。
それに加え、
暖かい体温。
静かな声音。
そして自分だけに語られる…
「…そっか、その手があったか」
「え…乗り気?」
まさかその気になるとは思わなかったと言わんばかりの表情。
私は優しい気持ちで大きく頷く。
それはとても回答に近い気がした。
どうして今までこんな事に気付けなかったのだろう。
そう、これならきっといける。
「退屈な話をしてくれる彼氏を作ればいいのよ。
寝しなに私が寝るまで」
好きな人の声なら、そこそこ有力なプラン2の教授の不愉快さを払拭出来る。
現実的かつ理想的なプラン3に満足する私。
しかし、目の前のいとこは何故か心の底からがっかりしている。
ん?という風に目で問うと、軽く首を横に振った。
そしていとこは頭を垂れる。
「…未来の彼氏に同情するよ」
その台詞の後の長過ぎる溜息に、私は独り、首を捻った。
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