恋人遊び 2


 待ち惚け。

 この場に来て、もう30分というところだろうか。
 5分、10分なら、ちょっとした待ち時間だが、30分となると諦める人も多いに違いない。
 30分はきっと分かれ目だ。
 それにかける思いの違いがはっきりと見える境界。


 巡る想いは期待、希望、焦燥、不安。
 「その時」を胸に私は待ち続ける。


 私はどういう顔で、その人を迎えようか。
 笑顔か不機嫌な顔か。
 待ち疲れた顔か、疲れを見せない、澄ました顔か。


 私は、待ち続ける。




 ついに、待ちわびた人が現われた。
 彼が目の前に現われるのをずっと待っていたのだ。


 私は一体どういう顔をしているだろうか。
 あからさまな笑みを浮かべてはいないだろうか。
 ここは喜ぶのではなく怒ってもいいところだという意見だってあるかもしれない。
 きっとこの時間をくだらないという人もいるだろう。
 しかし、私は価値ある時間だったと思う。
 それは揺るがない。


 彼が私に近付いてくる。
 何という充実感。


 彼はシュークリームの箱を手に提げ、マイペースな足取りで――



 私の前を通り過ぎた。



 名も知らぬ彼は一旦奥の駐輪場へ向かい、引き返してきた。
 精算機に、確認してきた番号を打ち込みロックを解除する。
 再び駐輪スペースへ赴き、メットを被る。
 そしてバイクを出してエンジンをかけた。
 走り出したバイクは私の横を颯爽と駆けて行った。


 私はというと、誇らしい表情で空いた駐輪スペースに自分のスクーター
――ちなみに名前はラヴァーズ1号だ――をを入れた。
 沸き起こるのは清々しい達成感。


 日曜日の真っ昼間。
 私は込み合うデパートの駐輪場を粘りで勝ち取った。
 ここに至る前に、前に並んでいたバイク1台。
 後に並んだ4台が諦めて列からリタイアしていった。
 35分に及ぶ長い戦いだった。


 ここの駐輪場は3時間までは無料なのである。
 それ以降、もしくは空きのある駐輪場は300円の駐輪代を取られてしまう。
 300円を節約するための35分。
 私は価値ある時間だったと信じている。




「…ていうか」
 醒めた声が割り込んでくる。
「ただ駐輪場並んでただけなのに、何でそんな大層なこと考えてるの?」
 年下のいとこが、半眼でこちらを見ていた。
「自転車置き場と違ってバイク置き場は回転が遅いのよ。少しぐらい余韻に浸らせてちょうだい」
 当然の権利を主張する私に、さっさと自転車置き場にそのスペースを確保していたいとこは、ため息を吐く。
「だから自転車で行けばって言ったのに…。ていうか、300円くらい払いなよ」
 何ということを!
「300円を笑う者は300円に泣く!」
 時間は金で買えないと言うが、時間をお金に代えることには成功した。
 素晴らしい格言を言い放った私は、いとこを従えてデパートへ入って行く。


 もちろん、買い物のタイムリミットは3時間後だ。






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