――月は時折鋭く光る
     しかしそれでも月は月



彼女の月
   ―切り裂くのは三日月―



「あんな可愛い美人の笑顔以外の姿なんて想像できないな」

 ギルドの酒場。
 酒に酔った男が向かいの連れにしまりない顔で話しかけた。

「お前はあの娘が戦ってるとこ見たことないからな…」



「二人、終わったわ」

 静かに彼女が口を開いた。
 彼女の足元には眼球に矢が突き刺さっている男が伏していた。

「後三人」

 彼女から少し離れていた彼が応えた。
 彼の傍にもいくつかの死体が転がっている。
 依頼主の屋敷の広間は既に血の匂いで満ちていた。
 数秒の静寂。
 絨毯の敷かれた階段の上方で気配が動いた。

「上だ」

 彼の一言で彼女の弓が動く。
 あまりにも的確に、矢は相手の心臓に突き刺さった。
 その男が息絶える前に、二本目の矢が放たれる。
 その時、彼は残りの一人を瞬殺しているところだった。
 血が掛からない位置にまで移動した彼の目に、弓を構える彼女の横顔が映る。
 彼女の表情は氷のように鋭く冷たい。
 夜のように静かに深い瞳。
 まるで、人の死など何とも思っていないかのように。
 頭部に矢を受けた男が階段を転げ落ちて来た。

「完了だ」

  彼がそちらに見向きもしないで呟いた。

「んー。早く終わったねー」

 彼女は背伸びをする。

「お腹空いたぁ。まだやってるお店あったかな?あ、事後報告が先か」
「ギルドの酒場はやってるだろ」

 彼の言葉に、彼女は先ほどと別人のようににっこりと笑った。
 賊の進入から僅か十分足らずの出来事だった。



「人を凍てつかせるほど鋭い瞳。とても敵には回したくないよ」

 緊張した面持ちで何処かの誰かが話している頃、彼女は極上の笑顔で仕事を終えた。





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