番外D----------



恋の道は険しく長い。多少の犠牲は止むを得ない。





おまじない





 そこは世界中から転職志願者が集まり、世界有数の書庫があるダーマ。
 そこを訪れる旅人の為に設けられた宿の一室。

「ラズー」
「どうしたの?クラム」

 赤い髪の魔法使いに呼び掛けられた青銀の髪の僧侶は尋ねた。
 尋ねられたクラムは手元にあるノートに目を落としながら口を開く。

「金色の蝋燭って持ってる?」
「金色の蝋燭?持ってないわね」

 不思議そうにラゼリアは答える。

「じゃ、銀色の紙は?」
「銀はちょっと…」
「桃色のインクってここの道具屋さんに売ってた?」
「黒と赤と青しかなかったわね」
「菫か薔薇って今の時期咲いてる?」
「花にそんなに詳しくないけど、咲いてないのじゃないかしら」

 次々と出てくる不可思議なアイテムは何1つ持っていない。
 残念な返答にクラムはうーんと頭を抱えた。
 ラゼリアの方は、挙げられたアイテムに共通点を見いだせず首を傾げる。

「それ、何に必要なの?」
「おまじない」

 おまじない?とラゼリアは疑問符を付けて復唱した。

「あのね、昨日書庫に行ったでしょ?」
「ええ」
「そこにあったおまじないの本に書いてあったの」

 そういう本を読んでいたのか、と思わずラゼリアは顔を綻ばせた。
 そんな彼女の表情には気付かずに、クラムはノートの項目を指差す。

「苺ジャムは食堂にありそうだけど、
 自分の誕生日に…っていうのはちょっと先過ぎるでしょ?
 毎日同じ場所で星を見るっていうのも旅をしてたら無理だし。
 好きな人の名前を叫ぶ系は、絶対本人に聞こえるもんね」
「恋のおまじないって事?」

 ラゼリアの指摘に、えへへ、と恋する乙女は顔を赤らめた。

「物も場所もこだわらないのはなかったの?」
「ないことはないんだけど、毎晩何十回も掌に好きな人の名前を書くとか…。
 ちょっと必死過ぎてのろいっぽくない?怖くない?」
「まじないとのろいって同じ様なものだしね。
 効果が一緒なら、どちらでもいいと思うけど…」

 苦笑に近い笑みで勇者にかけるのろいの様なものを肯定する僧侶。

「同じ本に載ってた別のおまじないを他の人で試せたらなーって思うんだけど。
 それが上手くいったら、恋のおまじないも怖くてもやりがいがあるよね」
「出来そうなおまじないがあるの?」

 恋のおまじないは、実行するのにまず苦労しそうな条件ばかりだった。
 他のものは条件が緩いのだろうかとラゼリアはまたも尋ねる。
 さすがの博識な彼女も、正直世俗的な言い伝えは詳しくない。

「えっと手持ちの物で出来そうなのが、罪人に効くおまじない。
 盗賊だし、ブルーに聞くかなーって思うんだけど」

 クラムは、さっきまで恋のおまじないを語っていたのと同じ調子であんまりにもな事を発した。

「因みにそれはどういう効果があるものなの?」
「えっと…足を折ったり、原因不明の病気にしたりするの」
「…一応止めてあげてって言っておくわ」

 それは100%のろいと呼ぶものだろう。
 若干の憐みを込めて、彼女は赤い瞳を隣の部屋に向けた。





 その部屋では、可哀そうな盗賊が原因不明の悪寒に襲われていた。






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