番外A----------



王様と勇者。どちらが大変?





職業:王様





「よし、今日からお主が王だ!」
「はぁ?」

 言うが早いが、ロマリア王は自分の頭の王冠をストロフィスに被せた。

「では臣下と民は任せたぞ」

 王はそう言うとスキップしながら謁見の間を出て行った。

「はぁ?」

 もう1度ストロフィスは疑問符を浮かべた。





 盗まれた財布を取り戻しに行ったりノアニールへ行ったりしていたことにより
 果たせていなかったロマリア王への謁見のため、ロマリアの城へ向かったストロフィス一行。
 無事謁見の間に赴き、事情を説明し始めたところで大臣に連絡が入った。
 先日のカンダタによる王冠の奪取。
 何とそれを解決したのが目の前の少年達だと言うではないか。
 王は驚きと同時に、笑みを浮かべたのだ。

「気に入った」





 勝手な宣言をした王は誰に引き止められる訳でもなく姿を消した。

「え、ちょっと…」

 目を丸くしてたたずむ4人。
 意味が解らず呆然とする彼らに大臣が歩み寄る。

「王の性質の悪い遊びなのだ。
 気に入った者がいるとすぐにこうして王にしてしまう。
 かくいう私も今まで3回ほど王をやっているのだが…」

 大臣は苦笑した。

「とにかくほんの少しで良いから
 王の遊びに付き合ってもらえないだろうか?
 宿に泊まるのが城になったと思ってくれればいい」

 そんないい加減なことでいいのだろうか。
 そう誰かが言い出す前にクラムが声を弾ませた。

「勇者君が王様ならあたしはお姫様やる、お姫様!」

 その言葉が承諾になってしまった。
 突然現われた侍女達に一行は連れ去られた。





「何が王の遊びだ。城の奴ら全員で楽しんでやがる…」

 ブラウは彼を高貴な衣装に着替えさせようとする侍女達の手から逃げまくっていた。
 このご時世こんないい加減な国があっていいのだろうか。
 隠れられる場所を探しながら彼はため息を吐いた。
 いつの間にか日も暮れている。





 通りすがりに見つけたクラムは、ひらひらのついたドレスを着せられていた。
 よほど嬉しいのだろう、上機嫌で跳び回っている。
 彼女は調子に乗って高そうな壷を蹴飛ばしてしまい、
 飛び出した彼は血の気を引きながら神業的な体勢でそれをキャッチした。





 中庭を挟んだ向こうにラゼリアの姿が見えた。
 聖職者だといってドレスは諦めさせたのだろう。
 彼女は男物の学者のような服を着ていた。
 まるでもともとここにいたような足取りで図書資料室に消えていく。
 ここに来ても有効な情報を探しているのか、彼女らしい。





 日が暮れるまで逃げまくり、ふと気配を感じて足を止める。
 門のある正面からすると裏にあたるところ。
 いくつかある窓の1つに人影が見えた。

「なんであいつあんなところに」

 白い毛皮のついた赤いマントを引きずった後姿。
 あまりにも似合わないそれはいっそ、喜劇役者といってもいい。
 そんな偽王のストロフィスが開けた窓を乗り越えようとしていた。

「お前何やってんだ?」
「正面で、こんな遅くに王が外に出てはいけないって言われたんだ」

 彼は突然声をかけたブラウに動揺もせずに答えた。
 扉から出られないから窓から出ようとしている。それは解った。
 だが何故。

「何でこんな時間に外に出る気なんだ?」

 今まで男同士という理由で宿の部屋は同じだったが、彼が夜に出かけたことなどない。
 何故こんなややこしいときに出るのだろうか。

「王役を譲ったロマリア王は日のある内はどこにいるかわからない。
 けど夜はいつも城下の遊技場に出かけるらしい」

 王が外にいる。それは解った。
 しかしそれが何の理由なのか解らない。
 怪訝な面持ちでブラウはまた問う。

「それが?」

 彼は何で解らないんだと言わんばかりの表情で付け加える。

「明日にでも旅立つなら、今夜中に王座を返しておかないといけないだろ」

 その言葉はあまりにも予想しないものだった。

「意外だな」

 彼はすぐにでも王座を返還しようというのか。

「ずっと王で居たがるかと思ったよ、俺は」

 ロマリアは気候もいいし、豊かな国だ。
 当てもなく世界を歩き回るより、派手な椅子にふんぞり返っているほうが楽そうだ。
 いつも旅を面倒がっている彼は絶対にこの役を喜んでいると思った。
 驚くブラウに彼はあっさりと言ってのける。

「俺が王の代わりになっても王は勇者をやってくれないだろ」
「お前…」

 ひょっとして勇者としての自覚が芽生えてきたのではないか。

「だいたい」

 期待を込めて言おうとしたブラウを彼は遮った。

「王っていうのは座ってるだけが仕事じゃないんだ。
 法律や経済のことを考えたり、色んな書類にサインしたり。
 そもそもロマリア国民の行く末を担ってるんだ。
 そんな面倒な仕事、ごめんだね」

――なるほど。
 何か釈然としないものがあるものの、思わず納得してしまった。
 理想の「勇者」の理由からは程遠い。
 しかしあまりにもこの勇者らしい理由である。

「じゃ、俺は王のところに行く」

 ストロフィスはずれた冠を直した。
 城から遠ざかる彼の背をブラウは不思議な心地で見送った。





 しかしながら。
 どこか釈然としない理由。
 勇者は国どころか世界の行く末を担っているのだということを、
 ブラウが気付かなかったのは良いことだったのだろうか。






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