ムオルの話----------





25話.面影A





「え?ポカパマズさんじゃないって?
 そう言えば、前来た時より若返っているか…」
「身体ももう少し大きくなかったか?」

 色々話が訊きたいなら賑わっている方が良いだろうと紹介され、
 やって来たのは街の中心部にある市場。
 そこには既に旅人の噂を聞きつけて、近隣の住人が集まって来ていた。
 皆一様にストロフィスを見てはポカパマズさんと呼び、
 違うと言えばそう言われたらここが違うあそこが違うと言い合っている。
 話が弾むにつれ、だんだんと物珍しかった旅人から注意は逸れて、
 思い出話で盛り上がっていく人々。
 さすがに存在を忘れられたら困ると、ラゼリアが現地民の会話に口を挟んだ。

「失礼ですが、そのポカパマズさんと言うのはどう言った方なのですか?」

 彼女の言葉に、ああ、と中年の男性が顔を綻ばせる。

「ポカパマズさんは何年も前にここに来た旅人さんだよ」
「来たってか運び込まれたんだっけか?
 確か、ほら、ポポタが…」
「あー、そうそう!
 街の外に出ちまったポポタが魔物に襲われそうになった所を助けられたんだ」

 1人が話し出すと、やはり周りがどんどんと情報を付け足して行く。
 自分も思い出した、とばかりに隣にいた青年も手を上げる。

「で、その時に倒れたポカパマズさんを坊主ん家に運んだんだよな」
「魔物にやられちゃったの?」

 倒れたという言葉を聞いて、クラムが首を傾げる。

「いや、てっきり怪我でもしたのかと思ったら、
 何の事はない、ただ腹が減ってただけだってな」

 きっと有名な話なのだろう。
 懐かしさも相まって、皆声を上げて笑う。

「随分間が抜けた旅人だな…」

 颯爽と魔物から子供を助けた後腹を鳴らす見知らぬ旅人を想像して
 ストロフィスが思わず感想を漏らす。
 周りの人々は頷いたり軽く首を横に振ったりしている。

「ちょっと抜けた所はあったけど、でも本当良い人でな。
 目が覚めてからちょっとの間だけど滞在してって、
 ポポタがすっかり懐いちまったんだ」
「そう、旅立つって時に泣き喚いて大変だったなぁ」
「そんな事もあったなぁ。
 ホント、通り挟んでも聞こえるくらいの大騒ぎでな」

 その後も一通りポカパマズという人物の思い出を聞き終えた所で、
 ようやく勇者一行の目的などを聞いてもらう事が出来た。





 ブラウは航路の確認の為、紹介してもらった漁師達の集いに。
 ラゼリアはいつもの様に教会へと向かって行き、
 ストロフィスとクラムは場所は変えずに食料の調達と聞き込みを始める。
 市場と言ってもさほど大きくはない。
 日持ちする食品を物色しながら話を聞いて回っていると、
 軽い足音が勢いよく近付いて着た。

「くらえ!」

 そう掛け声と供に放たれた物を、ストロフィスは振り返りながら翻したマントで受け止める。
 何か掛かった気配がありマントを見ると、飛び散っていたのは危険なものではなかった。

「水?」
「今のをかわすとはなかなかやるな!」
「え?なになに?何事!?」

 意味が解らないままストロフィスに庇われていたクラムは彼の影から顔を出した。

「でも次はそうはいかないぞ!
 ポカパマズさんの偽者め!」

 クラムの目線の先には水鉄砲を片手に自信満々に立っている少年の姿があった。





「ポカパマズと言うのはこの辺りに伝わる昔話の戦士の名だよ。
 旅人としてやって来た強く勇ましい戦士ポカパマズ!」

 街の外れにあるという教会へ向かうラゼリアの前を2人の村人が歩いていた。
 方向が一緒だからと彼女を道案内してくれている1人が芝居掛かった口調で教えてくれる。

「名前を聞く前に倒れちまって、呼び名がなくて不便だってな。
 確かポポタが勝手に呼んでたんだよ。
 その時のお気に入りの物語だったんだな。
 それが皆に浸透して、ずっとポカパマズさんと呼ぶ事になったんだ」

 なるほど、と腑に落ちた様な表情のラゼリアは、本当の名前は何だったのかと尋ねた。

「何だったかな?オ…オメガ…いや、オルガ……」

 何とか絞り出している言葉に、ひょっとして、と思っていた事が重なる。
 こんな果ての地まで旅をして来るストロフィスに良く似た戦士。

「オルテガ、ではなかったですか?」
「ああ!そうだそうだ!オルテガだよ!
 なんだいお嬢さん、知り合いかい?」

 その言葉にラゼリアは優しげな笑みを浮かべる。

「私は直接には。ただ、とても有名な方なのです。
 すぐに旅立たれたと言う事ですが、
 どこへ向かうとか、そう言った事は話されていましたか?」

 しかし、その問いには2人とも首を捻ってしまった。

「んー…なんせ随分前だからね、はっきりとは思い出せないな」
「目的があるような事を言ってたような気もするけど…
 ああ、ポポタが覚えてるんじゃないか?」

 あれだけべったりだったからな、という話に、もう1人は訝しげに問う。

「でも5つにもなってなかっただろ?」

 3つだったか、4つだったか…指折り数える男を覚えている派の男が遮る。

「いや、案外こう言うのは子供の方が印象深く覚えてるもんだって」

 先程も名前が挙がっていたポポタという少年の家を教えてもらった所で目的地へと辿り着き、
 お礼を告げた彼女は教会の門をくぐった。





「この水鉄砲はポカパマズさんに作ってもらったんだ!」

 誇らしげに見せてくれた水鉄砲は木を簡単に加工した物だった。
 長く使用している為に表面がつるつるになっており、少年の愛用ぶりが見て取れる。

 ポポタと名乗った少年は、別にストロフィスがポカパマズを騙った訳ではないと説明をした後も、
 旅人の珍しさからついて回っていた。
 ポポタは10歳になるかならないかという年頃だろうか。
 ストロフィスが相槌を打ちながら聞いている事に気を良くしたのか、
 街の事や旅人ポカパマズの思い出話を絶え間なく続ける。

「ポカパマズさんはね、すっごく遠くから来たんだよ!」
「あたしたちもすっごく遠くから来たの!」

 何故か年下の少年の語る昔の旅人に張り合うクラム。

「絶対ポカパマズさんの方が遠くから来てるよ!」
「あたし達なんて、アリアハンから来たんだよ!」

 そんな地名を言っても解らないだろう、とその国の勇者は思ったが、
 それを聞いたポポタの表情が変わった。

「…ありあはん?」
「知ってるのか?」

 うん、と少年は素直に頷く。

「ポカパマズさんも、ありあはん、って所から来たって言ってたよ」

 今度は2人の方が表情を変えて顔を見合わせる。

「あれ?ねえ、勇者くん、ひょっとして…」

 クラムの言いたい事を察して、ストロフィスはポポタの方を向く。

「ポポタ。
 そのポカパマズって奴の、他に特徴とか、
 持ち物とか他に何でも良いから思い出せないか?」
「ポカパマズさんの持ち物なら1つ僕の家にあるよ?
 僕にプレゼントとして置いて言ってくれたから」
「それ、あたし達に見せてくれない?」

 恐らく宝物だろうそれが余程嬉しいのだろう。
 少年はキラキラとした表情で頷いた。

「どうしてもって言うなら、見せて上げてもいいよ」





 ポポタの部屋に飾ってあったのは、年季の入った兜だった。
 彼方此方に歴戦を物語る傷が着いている。
 断りを入れてそれを手に取ると、内側に紋様が刻まれていた。

「これ、大通りの防具屋の物だな」

 大通りにある防具屋の看板の紋様は、
 意識はしてなくてもほぼ毎日目にしておりすっかり覚えていた。
 同じく大通りに実家が店を構えていたクラムも頷く。

「確か防具屋のおじさんって「あいつは自分の作った装備を着て旅立った」って、
 隣の武器屋のおじさんとセットでいつも自慢してたなぁ」

 その2人のやりとりを見ていたポポタが、不思議そうに尋ねる。

「お兄ちゃん達、ポカパマズさんの知り合い?」
「知り合いって言うか、勇者くんはむす…むぐっ!?」

 普通に答えようとしたクラムの口を勢いよく片手で塞ぎ、彼女の代わりに発言する。

「俺らの国の英雄だよ」

 それを聞いてポポタの顔がぱっと明るくなった。

「ポカパマズさんはやっぱりすごい人なんだね!」
 じゃあ魔王を倒す旅をしてるって本当だったんだ!」

 むーとクラムの口は未だ塞がれており、良く解らない呻きが聞こえた。
 それには構わず彼は頷いておく。
 じゃあさ、じゃあさ、とポポタはなおも続けた。

「ポカパマズさんが魔王を倒してお家に帰る時には、
 お兄ちゃん達会えるかもしれないよね?」

 戸惑う様にクラムはストロフィスを見たが、彼の表情は特に変わらなかった。
 沈黙を保っていたが、ポポタは返事など関係ないのだろう、何か夢見るように告げた。

「僕の事、忘れないでって言っておいて!
 僕がもっと大きくなったら、きっと旅をして会いに行くから!」

 会いに来て、ではなく、会いに行くと宣言した少年が妙にまぶしく見える。
 少し目を細めて、ストロフィスはポポタの頭に手を置いた。

「いつか、会えたらな」

 遠い日にここを訪れた旅人に。

















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