アリアハンの話----------



 そこでは明日の夢を見るという。




2話.予知夢を求めて@





 魔王バラモス。

 その名がひそかに伝えられ、その恐怖が浸透し始めて早15年。
 世界の平和の為、多くの者達が旅立ったが、
 魔王を倒した者はおろか、その前に立った者もいないという。

 …実はそんな奴いないんじゃないかという疑問は抱かない事にした。
 いきなり勇者の存在意義を問われかねない。





「…で、魔王っていうのはどこにいるんだ、ブルー」

 結局盗賊ブラウを仲間に入れて、ストロフィスは開口一発そう聞いた。

「何で俺にいきなり振るんだ!それに俺はブラウだ!」
「ブラウって発音しにくい。今日からお前はブルー。で、魔王は?」

 一方的に決め付けたストロフィスにブラウは反論する元気もなくなる。

「ネクロゴンドのどこか、ということしが解らん。
 はっきりしてるなら今まで独りくらい辿り着いた奴もいたに決まってるだろ」
「何だ、使えないな」

 彼は軽く舌打ちするとつまらなそうに顔を背けた。
 ブラウは無言で街路樹を蹴っている。
 アリアハンの午後は俄かに活気付いていて、
 ストロフィスは取り敢えず手近な店で旅支度を整えていた。

「勇者君、取り敢えず別の大陸に行ってみようよ」

 クラムが彼の腕を取って顔を覗き込む。

「そうだな、レーベの港から船は出てるんだっけ?」
「今行ってもレーベから船は出てないぞ」

 ブラウが街路樹から離れて意見した。2人の目が彼の方を向く。

「知らないのか?最近魔物が急増して、海が荒れてるんだ。
 俺が1ヶ月前に乗って来た船を最後に無期休航だ」
「じゃあどうすればいい」

 少しの間も空けずに彼は問い返した。

「アリアハン王は何か言ってなかったのか?」
「特に。さぁ、行けとかしか」





 そもそもアリアハンは他国と国家間での貿易というものを行っていない。
 国交がまったくない訳ではもちろんないのだが、港や取引全般は民間で運営されている。
 王は知らせを受けていても、あまり念頭になかったという事はありえる。

 ブラウは深くため息を吐く。初めの一歩を踏み出す余地もない。

 何となくどうする事も出来なくて通りの真ん中に立ち止まっていると、
 今まで黙っていたラゼリアが口を開いた。

「予知に頼ってみるのはどうかしら」

 彼女の言葉に、3人ともぽかんとしていた。

「天に近いところというのは神に近い、っていう発想からね、
 ナジミの塔の最上階では神の夢――予知夢を見られるという言い伝えがあるのだそうよ」

 ラゼリアは西の方を指した。
 この通りからは見えない。
 しかし街を出れば判るが、その方向には確かに塔が立っている。

「そういえばあたしも聞いた事があるような」

 クラムは首を傾げる。

「何でも…島国であるアリアハンが魔王の存在に気が付いたのも、
 この塔の予知夢のおかげだったとか。
 この大陸を出るヒントがあるかもしれないわ」

 すらすらとそう告げる彼女にブラウは不審そうな顔をする。

「お前、俺と同じ時期にここに来た割に詳しいな」
「アリアハンには親切な人か多いわねぇ」

 ラゼリアはやんわりと答えになっていないようなことを言ったが、用意に想像はついた。
 彼女がこの国に来てこの街に着いて、数え切れないほどの男達が教会に足を運び、
 彼女の気を引こうと様々な話題を提供してきたのであろう事は。

「ナジミの塔って湾の真ん中に建ってるよな。どうやって行く?」

 ストロフィスは発案者に問うた。

 ナジミの塔は海に囲まれている。どうやって造ったのか気になるところだが、
 ひょっとしたら昔は陸続きだったのかもしれない。

「西の浜辺に塔に通じている洞窟があるけど、
 城にも秘密の通路があるらしいわ」

 お城仕えの学者さんが言っていたわ、と彼女は付け足した。
 秘密の通路とか一般人に教えちゃ駄目だろ学者。

「ラズ本当にすごいね」
「地元民のくせに知らな過ぎるのはそっちだろ」

 素直に感心するクラムにブラウは最もな突っ込みを入れた。
 そんなやり取りも気にせずに向きを変えたのが1人。

「じゃあ、行ってみるかナジミの塔」

 ストロフィスは面倒臭そうに歩き出した。





 城に入り、ラゼリアに声を掛けてきた学者に頼むと快く秘密の通路に案内してくれた。
 謁見の間から程遠い廊下にある階段を降ると暗い牢に入った。
 牢の番をしていた暇そうな兵士はラゼリアが微笑むとやはり快く、錆付いた扉を開けた。
 更に暗い底に通じる階段が姿を現した。

「やだー、じめじめする〜」
「クラム、袖が伸びる」

 地下道は石造りとはいえ、決して快適ではなかった。
 なんせ海の下。
 あちこちで水溜まりが出来、湿度も温度も高く、足場もかなり悪い。
 先頭はランプを持ったブラウが歩いていた。
 最後尾はラゼリア。
 間のクラムは滑る足場に対応出来ず、ストロフィスの左腕にしがみ付いていた。

「静かにしろ。魔物が出ないとも限らない」
「そんな事言われてもぉ!」

 ブラウの指摘にクラムは声を上げた。
 そしてその直後、

「きゃあ!?」

 うっかり石のタイルにつまずき、転倒する。
 もちろんストロフィスを道連れに。

「いたた…」

 痛がるクラムの下にはクッションになってしまったストロフィスが泥にまみれている。

「2人とも大丈夫?」

 ラゼリアが助け起こそうと近付いた。
 すると、先ほどの悲鳴に釣られてか大量の魔物が姿を現した。

「祝、冒険初戦闘!」

 ラゼリアに助け起こされたクラムは嬉しげに魔物に向かって宣言した。
 ひのき棒を適当に振り回しポーズを決める。

 ブラウとラゼリアはすぐさま前線に出ると、それぞれの武器で魔物をなぎ払う。
 アリアハンの魔物は外界のものに比べて極端に弱い。
 一振りで大抵が行動不能になっている。

 しかしながら数が多い。
 倒しても倒しても出てくるヘドロのようなバブルスライムや巨大な蛙のフロッガーにいらいらしてくる。
 そんな中、

「わー、ラズ格好良い!頑張って〜」

 クラムは元気に仲間の応援をしていた。
 最初の宣言は格好だけだったのか。
 棒を振って声援を送る。

「口じゃなくて体を動かせ!」

 堪りかねたブラウがそんな彼女に怒鳴る。

 そして同時に姿を見なかった勇者を見つけた。
 彼は後ろで動くこともせず、
 真正面から飛び込んできたスライムのみを剣を振り下ろすという作業だけで倒している。
 無駄な動きは一切ないが、これでは魔物の数はなかなか減らないだろう。
 実質2人で倒しているのだから。
 ブラウは頭痛がしてきた。

「ん〜…メラ!」

 クラムの声と共に火の玉が出現する。

 ブラウの叱咤が効いたのか魔法を唱えたようだ。
 彼女が唱えたのは最も一般的な火の魔法。
 それ故に最も術者の実力を測れる魔法でもあるのだ。
 火の玉は勢い良く一匹のフロッガーに向かって行き…鼻先を煤けさして弾けた。

「あれれ?いい出来だと思ったのにぃ!」

 一瞬魔物たちの視点がそちらに集まり、
 そしてフロッガーは何事もなかったようにこちらに襲い掛かる。
 それどころか、突然の炎の光に触発され、また続々と魔物があふれ出してきた。

「あぁぁ、もう何もするな…」

 ブラウは頭を抱えてしゃがみ込んだ。







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