海原の話----------





17話.誇り高き愚かなる門A





「田舎者は帰れ!」
「ちょっ、待ちなさいよ!だから、まだ荷物が!」

 何度も勇者一行に向けられた物と同じ言葉に、女性の声が喰い付いた。

「黙れ!田舎者め!」

 お馴染みの門番に加え、城の兵士だろう男が登場している。
 女性は兵士に連れられ門の外に出されようとしていた。

「もう滞在時間が過ぎているだろ!これだから田舎者は!!」
「分をわきまえろ、田舎者が!」
「入城の時に詳しく説明しときなさいよ!ってか短すぎ!」

 負けずに女性は言い返すが、男達はまるで聞く耳を持たない。
 お決まりの言葉を吐きながら、女性を押し出そうとする。

「聞き分けが悪いぞ田舎者!」
「これだから田舎者は!」
「自分らの方がよっぽど田舎者よ!
 超田舎者よ!田舎者最高位よ!!」

 ひたすらに田舎者を繰り返す男たちに、とうとう女性はキレたらしい。
 喚きながら門にしがみ付いている。

「ええい、埒が明かん!」
「こっちでこの田舎者を押さえておくから門を閉めろ!」

 意地でも離れまいと門をがっちり抱いている女性に門番と兵士は実力行使に出る。

「くっ、田舎者にこれだけ手古摺るとは!」
「お前らが田舎者言うなー!」

 全力で叫んだ際に若干体勢崩れたらしい。
 無理やり引き剥がされる。

「今だ!田舎者を外へ!」
「出て行け!田舎者!!」

 まるで荷物のように放り出される。
 女性が通りを転がって起き上り門を振り返った際には、すでに重厚な扉が閉められていた。
 もうあの中に戻る事は出来そうにない。

「…〜っぉの!田舎者大魔神!古民族!ど阿呆!
 とうへんぼく!鬼畜変態!…っ、爆発しろっ!!」

 完全に腹いせだろう。
 思いつく限りの罵声を浴びせて、挙句に門を思い切り蹴飛ばしている。
 ああも足蹴にされては、誇り高き門も形無しである。

「あんたらが国を出た暁にはカモってやる!
 絶対必需品を5倍の値段で売ってやる!!
 商売人仲間に必ずエジンベア人は
 田舎者って呼ぶように伝言してやる!!!」





 ぎゃんぎゃん叫ぶ声を聞いていた勇者一行4人は呆気に取られて言葉を失っていた。
 ただ2人、双子の見習い商人を除いて。

「あの声は…」
「ていうか、あの程度の低い罵声は…」
「あ、ネーブル、マーコット!?どこいくの〜!?」

 突然門に向って駆け出した2人を、クラムが呼んだ。
 しかしながら振り返らなかった2人はあっという間に門に辿り着いた。
 そして同時に門に悪態を吐く女性に向かって叫ぶ。

「「姉さん!!?」」

 その呼び掛けに、言葉を止めた女性は振り返った。
 健康的に焼けた肌に、高く結い上げた薄い赤毛。
 彼女は気の強そうな瞳を驚いたように見開いた。

「ネールにコットじゃない」
「じゃない、じゃないですよ〜!」 「酷いじゃないですか姉さん!」
「僕らを置いてくなんて!」

 自分達の愛称を呼んだ彼女に、口々に少年達は不満を口にした。
 しかし彼女は悪びれる事はなく、腰に両手を当てて堂々と言い放つ。

「乗り遅れたあんたらが悪い!
 商人たるもの、時間に正確じゃないと半人前にも程遠いよ」
「それにしたって何の手立てもなく置いてくことないでしょ〜」
「それにあんな口喧嘩した姿見た後に、そんな真っ当な事言われても…」

 逆に弟分に言い返され、彼女は一瞬うっと詰まった。
 それでも負けじと悔しさを口にする。

「だって2泊3日よ!?
 正式に入手した通門証持って2泊3日!!
 超割に合わないっての!!」

 衝撃の情報に、双子は揃ってへなへなと地べたに座り込んだ。

「に…2泊3日?そんなぁ…」
「僕らのあの苦労が2泊3日…?」

 どうやら通門証の為に相当な苦労があったらしい。
 意気消沈している。

「そうよ、だからあたしは思う存分怒りをぶつける権利が…」

 彼女はそこまで言って、ふと気づいたように言葉を止めた。

「そうだ。あんたら一体どうやってここに来たの?
 エジンベア行きの船は、早くても1ヶ月は出ないはずだったのに。
 あ、根性で泳いできた?それなら褒めてやるわ」

 無茶な事を言われて、再び立ち上がる2人。

「そんな訳ないでしょ!」
「あの方たちにお世話になったんですよ!」

 びしっとマーコットが遅れてやってきた4人を差した。
 そこで勇者一行と、激しい怒声の女性がお互いの姿を認識する。
 一瞬の間。
 そして双子の「姉さん」とストロフィス、クラムが同じ表情を浮かべた。

「「ああ!」」

 叫んで、お互いを指さす。

「…ええっと、ストロフィスとクラム。だったっけ?
 魔王を倒す旅をしてる、って言ってたっけね」
「わっ、すごくよく覚えてる!」
「職業柄、商売関係で関わった顔と名前は、忘れない主義でね」
「あたしも覚えてるよ。えっと、えっとね…ベリィ、さん!」

 淡い赤毛を高く結い上げた健康的に日焼けした女性。
 数ヵ月ぶりに予想外の場所で再開した女商人は、にっこりと笑う。

「お、嬉しいね」
「あたしも宿の娘だもん。職業柄!」

 誇らしげに応えるクラム。
 そこに置いてきぼりになったメンバーが口を挟んだ。

「知り合いか?」
「お知り合いだったんですか?」

 ブラウはクラムとストロフィスを振り返り、双子はベリィをそれぞれ振り返る。

「アッサラームで」

 ストロフィスがぽつりと答えた。
 それをクラムが補足する。

「高い商品を売りつけられそうになった時に、助けてくれたんだ」
「まさか!?」
「姉さんがそんな善人なことを!?」

 ベリィを見つけた時以上に驚愕の眼差しを彼女に向ける。

「…おじさんにね」

 気まずそうに放たれた言葉に、双子は揃って溜息を吐く。

「叔父さん…まだそんなことを…」
「今頃もビビアンさんにお金を注ぎ込んでるんでしょうね…」
「アッサラームに帰った時に、まだ店あるかな…」

 ネーブルとマーコットはここからは決して見える事のない
 アッサラームの地を見ようとするように遠い目をした。

「あ、でもそれで納得しました。口止め料だったんですね」
「なるほど。悪い噂あれ以上流れるとヤバいですしね!
 さすが姉さんやることが悪どいです!」
「あんたら後で覚えてなさいよ…」

 低い声音で告げられて、調子に乗っていた双子はぴたりと口を閉じた。

「え、あれそういう意味だったの!?」

 クラムは逆に驚いている。
 詫びと好意としか捉えていなかったのだ。

「あの時のあれは父さんの弟。
 この双子の母親の兄貴でもあるんだけど」

 その台詞が区切りだったらしい。
 ベリィは話題を切り換えた。

「まさか本当に旅先で会うとはね」

 そして後ろで並んでいる僧侶と盗賊に視線を送る。

「で、こちらさんとは初対面ね」

 確認した上で、先ほどまでの失態を感じさせない調子で彼女は自己紹介をする。

「名前はベリィ。アッサラームを拠点に商いさせてもらってるわ」

 その紹介を受けて、本人達ではなくクラムが張り切る。

「これがブルーで」
「ブラウだ」

 相変わらず非公認の愛称で呼ばれた彼は無視して名乗り。

「この人はラズ」
「ラゼリアです。はじめまして」

 彼女の方はよりさりげなく訂正した。

「ああ、よろしく」

 そう商人らしい笑顔で返し、ふとベリィの表情が変わった。
 じっとラゼリアを見つめる。

「あんた…どっかで会ったっけ?」
「いえ…?覚えがありませんけど…」

 問われた彼女は本当に不思議そうな顔であった。
 ラゼリアがそう簡単に人を忘れるとは思えない。
 首を傾げ合う2人を見て、クラムが口を挟む。

「ラズもアッサラームもよく行ってたんでしょ?
 その時に買い物したんじゃないの?」
「アッサラームでの客だったらさすがに忘れないよ」
「私も覚えがあると思うけど」

 続けて否定され、クラムは第2案を提示する。

「じゃ、その時にすれ違ってるとか?」
「いや、商売で会った人は忘れないけど、
 さすがに通り過ぎただけで…」

 アッサラームはかなり大きい街だった。
 拠点が同じだったとしても生活エリアが異なっていても不思議ではない。

「僕だったらこんな綺麗な人、一瞬見ただけでも忘れませんよ」
「特徴ありますもんね、ラゼリアさん」

 青銀の長い髪に、紅の瞳。
 美しいだけではない、珍しい特徴。
 すれ違っただけでも、覚えている可能性は十分にある。
 けれども、どうにもベリィは納得出来ないようでうーんと唸る。

「私も各地をふらふらとしていましたから、ひょっとしたら、
 その旅先で、何か買わして頂いたのかもしれませんね」
「うぅん…そうなのかな?」

 どこか釈然としない顔でそう呟いた。

「とにかく、礼を言っとくよ。連れが世話をかけたみたいで」
「誰のせいだと思ってるんですか〜!」
「あんたらのせい」

 迷わずの即答だった。





「それにしてもあたしが乗った船の後、
 ポルトガからエジンベアへ来る船なんてなかったはずだけど?」

 再会を果たした商人達とストロフィス達は改めて場所を城門の前から、
 一気に庶民感溢れる食堂へ移している。
 先に宿泊先を探すかという問いにベリィは荷物が少ないからいいと答えた。
 彼女は荷物の多くをエジンベア城内に残してきてしまったらしく、手元には大きめの鞄1つしかない。

「自分たちの船で来たからな」

 答えたのはブラウ。
 そこで重大な事を言い忘れていたというようにネーブルが立ち上がった。

「そうですよ、この方たちはなんとあの、アリアハンの勇者御一行何ですよ!」
「この方がアリアハンの勇者様なんです!」

 マーコットが無理やりストロフィスを引っ張り出した。
 因みに彼はほとんど声を発していない。

「ああ、なるほどね。魔王を倒すって言うのは本気だった訳だ」
「冗談だと思ってたのー?」

 クラムがすかさず突っ込むと、ごめんごめんとベリィは手を振った。

「それにしてもいいねぇ、自分の船!」

 彼女は勇者云々よりも船に興味津津の様だ。

「因みに、この国の後行く先は決まってる?」
「んー、まだ、だよねぇ?」
「不本意ながら」

 ブラウが不機嫌そうに言った。

「ねぇ」

 その答えに満足げに笑みを浮かべて、ベリィは提案した。

「その話、一口乗らせてよ」














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