海原の話----------
鉄壁の門。鉄壁の…商人?
17話.誇り高き愚かなる門@
ポルトガより北西に浮かぶ島国、エジンベア。
港につけている商船たちよりは小ぶりな、しかし質の良い船が来航した。
そして6つの影が、エジンベアの地に足をつける。
「陸に…着いた…」
「勇者くん!勇者くん、陸に着いたよ!
もう揺れないよ?いや、揺れてる?揺れてるの?」
アリアハン出身の魔法使いは縋るように地に足どころか、両手までつけて確かめていた。
「揺れてないわよ、クラム。
まだ波の感覚が残っているだけで、時期に戻るわ」
「陸…、地面って素晴らしいな…。だって、固いし…」
同じくアリアハン出身の勇者は、虚ろな瞳で意味のないことを呟く。
「ストロ、気を確かに」
この航海で、確実に体力と体重が減っただろう。
百戦錬磨の僧侶は哀れみを込めた瞳でそれに返した。
そんな3人を入港手続きをしてからやや遠巻きに見ていた盗賊は、冷ややかに訊ねる。
「お前な、これからもずっと船なんだぞ。
結構乗ってたのに、そんなんでこの先どうするんだ?」
「この先…?」
ぼーと遠くを見てから、やはり小さく呟く。
「1人で行ってくれ、何処へでも…」
「お前という奴は…」
大地そのものに一喜一憂の勇者一行の後から下船してきた
臨時メンバーの双子商人は別の事で安堵していた。
「良かった、これで何とか姉さんに追いついた」
「いやもう、一時はどうなるかと…」
2人で手を取り合って、嬉し泣きしそうになっている。
「ネーブルとマーコットのお姉さんは
今頃エジンベアの何処にいるか検討はついてる?」
出港準備もあったので、2人の姉の出航日から3日ほど遅れていた。
港から城下街はすぐだが、郊外へ行っていたら合流するのは手間が掛かりそうだった。
「あ、はい。僕らもエジンベアは初めてなんですが」
「姉さんは、ポルトガ王からエジンベアの門の通門証を受け取ってました」
いつものようにネーブルとマーコットが交互に答える。
「だから、多分王城へ入っている予定です。
通門証は1度しか使えないですし、しばらくは城内に滞在しているはずです」
「エジンベアの王城内は滅多に他国の人がこないから、
商売のし甲斐もあるって張り切ってましたから、間違いないです」
と、そこまで伝えてから、2人は思い出したようにアリアハン出身の2人に向き直った。
「あ、きっとお2人はご存知ないですよね?
エジンベアは、城内に貴族階級と王族が一同に住んでいるんですよ」
「なので、城門をくぐった先にもう1つ街があるって感じらしくて。
ネーブルが言った通り、そこに住んでいる人すべての身分が高いので
正直城下街とは一線を画しているというか、別世界らしいです」
「別世界!」
クラムは船酔い気分はふっとばして、目をきらきらさせた。
そして、いつものごとく旅慣れた2人の方へ、事実確認を行おうとした。
しかしながら、2人はめずらしく揃って似たような表情を浮かべていた。
「エジンベアの門…」
ブラウが呟く。
「エジンベアの王城…」
次いでラゼリアが呟く。
「無理だな」
「城下で宿を取って、待ちましょうか」
まるで示し合わせたようにはっきりと言った。
「ええっ!」
「何で?せっかく着たのにお城行かないの?
勇者くんはアリアハンの王様の書状もあるし、
せめて2人のお姉さんがいるかどうか聴く位は…」
「行かないのっていうか…」
「行けないんだよ」
「行けないって…?」
苦い表情で王城があると思われる方向を指しながらブラウが応える。
「愚かなる門っつって、旅人の間では結構有名で。
あー…見たら解る。いや、言われたら解る」
「田舎者は帰れ!」
如何にも優雅な飾りのついた立派な門。
エジンベアの誇り高き門のその前で、
如何にも屈強な年季の入った門番がざっくりと言った。
「え〜!中に入れないの〜!」
不満そうな声を上げるクラムの前に確固たる意思で立ち塞がる門番。
「通門証もない田舎者を城へ上げる訳にはいかん!」
「じゃあ、何日か前に商人のお姉さんがここに来たかは?
それくらい教えてよー」
「信用ならん田舎者に城内の情報は一切伝えん!帰れ!」
「勇者くんだよ!?アリアハンの勇者!!
世界のために魔王を倒すんだよ?王様の書状もあるのに!?」
彼女は負けじと今まで各国の王城で活躍した、アリアハン王の書状を掲げる。
力強く掲げすぎて若干端っこが破れた気がした。
「アリアハン?知らんな。勇者だろうと歯医者だろうと、
格式高きエジンベアの仕来りに従えん奴に、この誇り高き門はくぐらさん!
田舎者は帰れ!!」
さすがに今までは「英雄オルテガの国」と当たり前に知られていた自分の故郷を、
はっきりと知らないと告げられるともうどうしようもなかった。
クラムはしょぼんと、門番の下を離れてきた。
こうなっちゃうの、といわんばかりにラゼリアが苦笑いで出迎える。
「エジンベアか、近隣諸国の王直々の通門許可でないといけないのよ。
基本的にエジンベアが世界の中心であるとしている国だから…」
「う〜…こうなったら、ラズ!」
「え?」
落ち込んでいるのかと思いきや、クラムははっきりとした口調で告げた。
「いつもな感じでお願いして!」
勇者一行秘密兵器――国家機密さえ口を割らせる天性のセクシーギャル。
「……無理だと思うけど…」
「おい、一応やってみるのかよ」
ブラウの突込みを受けつつ、秘密兵器投入決定。
門番の前に、青い髪を靡かせた僧侶が向かう。
同じようにしっかりと立ちふさがる門番。
「何だ、田舎も…」
「通門証は持っていませんが、確かに身元を保証できるものは持っています。
私たちには今、エジンベア協力と知識がどうしても必要なのです。
陛下への謁見を許可して頂けませんか…?
せめて、数日前やって来た商人がまだ滞在しているかを…」
水のように流れる前髪の影から、潤んだ紅い瞳の必殺の上目遣い。
「――ぃ…ぅ………。い、いや!駄目だ!
何人たりとも通門証のない者を通す訳にはいかん!」
「そこを、なんとか」
ラゼリアが、門番との間合いを一歩詰めた。
先刻まで堂々と立っていた門番が、びくっと驚き、後ずさる。
「だ、だだ、だ、駄目だ、駄目だ!!」
まるで邪念を振り払うかのごとく、目を瞑って耳を塞ぎ、門番はラゼリアを追い払った。
こんなものよね、と言う感じの苦笑いで、今度は彼女が迎えられる。
「やっぱり駄目だったわ」
「くぅっ、ラズのお色気作戦でも通用しないなんて!
あの門番のおじさん、超鉄壁!超硬派!」
発案者のクラムはかなり悔しそうに叫ぶ。
「今の、お色気作戦だったのかしら?」
「いや、意外とかなり揺れてたぞ?たった3文字どもってたし。
最後の方もう、末尾に田舎者ってつける余裕なかったし。
しかもちょっと答えかけてなかったか?」
様子を見に行っていたストロフィスが、思わず告げる。
秘密兵器の威力は半端ではない。
「ていうか、お前、なんでそんなうろうろしてんだ?」
「じっとしてたら揺れてて気持ち悪い」
勇者はまだ船酔いをたっぷり引きずっている。
「え、じゃあ、もう一押し?」
ストロフィスからの情報で、クラムはいたずらな笑顔を浮かべた。
「多分無理に中入ったところで大した収穫はないだろ。この城は」
やめろやめろと手振りで示しながら、クラムの前にブラウが立つ。
「見た通り、他国の文化どころか、人間にすら排他的だからな。
情報も集まってないだろうし、まだ街中の方がマシだろ。
王立じゃなければ図書館くらいは入れると思う」
「何か情報がどうとかっていうよりも、微妙に悔しいし…」
視認出来る距離だと言うのに彼女は思い切り門番を指さす。
「ブルー、思いっきり後ろから殴ってきてよ」
「お前何気に無茶苦茶言うよな。
正直あまりの大胆さにびっくりだ」
本気でちょっと引いて、ブラウが断った。
「いーじゃん。どうせ盗賊だし。すでに犯罪者だし」
「どうせ犯罪になるなら、門番よりもお前をまず殴る!」
それは確かな決意だった。
「でもだとしたら、どうしよう」
「姉さん、まだ中にいるかなぁ」
ネーブルとマーコットが不安気な表情で呟く。
「城下で待つって言っても、いつ出てくるか解らないし」
「下手したら、またすれ違って置いてかれるってこともあるかも」
「かと言って、ここでずっと待ってる訳にもいかないし…」
王城の前をうろうろしているなんて、不審者の田舎者として捕まりそうだ。
おどおどし始めた双子にブラウは港の方を示した。
「どうせ国を出る時は海路しかないだろ。
旅の扉はこの国にはないはずだ。
港で出航予定の船を当たっとけば、何とかなるんじゃね?」
「まっとうな手段で国を出るかどうか解らないですから」
「エジンベアの金持ちは結構口先で何とかなるって言ってましたし」
「姉さんならどんな手段も使いかねない…」
「ああ、ここは馬鹿が金持ってるからなぁ」
ブラウが何だか懐かしげに納得した。
いつものごとく、興味なさそうに成り行きを見守っていたストロフィスがぽつりと呟く。
「…ていうか、その姉さんってどんなつわもの?」
とりあえず無難に毎日港を当たろう話は纏まって、一行は宿を確保する事にした。
本来の旅の目的は人探しではない。
そこへもう聴きなれた声が響いた。
「田舎者は帰れ!」
思わず全員が振り帰る。
ただ、それは彼らに言われたものではなかった。
「こっちはばりばりの都会生まれよ!!」
女性の声が高らかに言い返した。
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