ポルトガ〜ダーマの話----------



 もう2度と会う事はないと…――





13話.嬉しくない再会@





「あー…もう迷惑な奴らだな」
「勇者くん、それ誰のこと?」

 クラムがストロフィスに問うたのは思い当たらなかったのではなく、
 思い当たり過ぎたため。

「全員」
「やっぱし」
「俺ら何かもうかなり、雑用係というか、何でも屋に使われてんぞ。
 今更っていや、今更だけど…」

 ブラウがげんなりと呟く。
 ポルトガ王のお使いに、衛兵の代わりに人攫い退治。

「急がば回れよ。思わぬ拾い物があるかも知れないし」

 ラゼリアがさりげなくフォローを入れた。
 その後の、ないかも知れないけれどね、という小さな言葉もはっきりと聞こえていたが。

「それにしても、アジトが解ってるのに誰か捕まえないのかな?」
「何か、シャンパーニの塔と同じだな」

 あそこも、盗賊が住み着く塔として有名だった。
 しかし、ストロフィスは嫌そうに言った。

「やめてくれ。アレのことは思い出したくない」
「まぁ、確かにそうだな」

 あの奇抜な姿を思い出し、ブラウも思わず頷いた。





 街から少し距離のある森の奥。
 4人は最近物騒なやからが住み着き始めたという洞窟へすでに侵入していた。
 どうやらそこが人攫いのアジトらしく、確かに新しい足跡がいくつも見られた。
 さほど広くない内部で、捕らえられた者はすぐに見つかった。





「ああっ、皆さん!」

 牢屋の中から声を上げたのは、
 ストロフィスとクラムにとっては見覚えのある青年だった。
 喜んだのもつかの間、彼は気まずそうに口を開く。

「結局捕まってしまって…」
「そんなことだろうと思ってたし」

 ブラウが針金を突っ込み数秒かからず錠を開ける。

「そうだ、そっちの部屋にタニアが捕まっているんです!
 彼女を早く助けてあげてください!」
「あー…わかったよ」

 5人で隣の部屋へ移動する。
 同じような牢のある部屋には、1人の女性が怯えたように座っていた。

「タニア!」
「グプタ!」

 グプタが牢にすがり付いた。
 それをどかせて再びブラウが錠を開ける。
 扉を開けて、すぐに2人は抱き合った。

「ああ、良かった…!」
「もう会えないかと思っていたわ!」

 しばらくは感動の対面だったが、タニアを抱きしめたままグプタはストロフィスの方を向いた。

「すみません、あんなに酷く言ってしまったのに…」

 まったくだ、と言いかけた彼の口をふさいで、ラゼリアが答える。

「いえ、無事で何よりでした」

 そこで、ふと気付く。
 グプタの腕の辺りに赤いものがにじんでいた。

「あら、怪我?」
「あ、はい。抵抗した時に、少し」

 彼女は心配そうなタニアを少し離して様子を診る。

「先に出て、様子を見ておいてくれる?」

 盗賊団が帰って来ているかもしれないから、と続けた。
 頷いて、彼女を除いた3人は先に帰路へ着き始めた。





「でも、まったく誰とも会わないね」

 クラムが後ろや前を見て言った。
 そう、確かにこの中に入ってから捕まった2人以外を見ていない。
 諸悪の根源である人攫いこと強盗の姿がない。

「まぁ、いないならいないでいいんじゃないか?」

 言って、何気なくストロフィスは曲がり角を曲がった。
 そして、後歩きで戻って来た。
 蒼白の表情で。

「どうしたの!?勇者君大丈夫?」

 彼から発せられたのは、消え入りそうな声。
 まるで現実と認めたくないと言わんばかりの呟きを何とか聞き取る。

「ふ、覆面マッチョ…」
「は?え、もしかして…」

 的確すぎるその表現にぴったりなのは世界にただ1人。
 ブラウがその姿を認めて思わず後ずさる。

「うわあぁ?」
「あー!お前ら!!」

 そして相手も驚愕の眼差しをこちらに向けていた。
 クラムはびしっと指差した。

「変態盗賊団!」
「誰が変態だ、誰が。
 泣く子も笑うカンダタ盗賊団に向かって!」

 わざとなのか、間違ったのか判断に苦しむところだった。
 確かに、ある意味笑うだろう。
 覆面マッチョことカンダタとその子分たちは、しかし堂々とその場に立っていた。
 ストロフィスは、悲壮な顔をする。

「う…もう2度と視界に入れたくなかったのに…」
「お前、俺様の肉体美を何だと思ってやがる?」

 カンダタの問いに、彼は明らかに目線を反らしながらはっきりと答える。

「生理的に受け付けない。
 吐き気がする。むしろそれが殺意に変わる」
「何だと!?見ろ!この更に美しさの増した上腕ニ等筋を!」

 彼は腕を曲げたり伸ばしたりして、筋肉を誇る。

「寒っ!鳥肌立ちすぎて羽生える!」
「ええぇ!?この変態盗賊!勇者くんに何てことを!!」

 クラムがストロフィスをかばうように立ちふさがった。
 まるで扱いは極悪人だ。
 いや、強盗犯なので極悪人で間違ってもいない。

「言いがかりだろ!?」
「ていうか、盗賊に力を込めて言うな!」

 ブラウもさりげないクラムのニュアンスに喰い付く。
 突っ込みに次ぐ突っ込み。
 その場は訳が解らないほど混乱していた。





「窃盗に誘拐。変態極悪人の癖に!」

 クラムが3人の真ん中でよく解らないポーズをとった。
 気を取り直して対立の姿勢を確立する。
 それに対してカンダタも、何故か筋肉を誇りながら答える。

「美味しい料理を食べようと思っただけだ!」
「買いなよ!?」

 驚愕の返答。

「ふっ、盗賊たる者買うなんて野暮なことはしねぇさ」
「おいっ!誤解を招くようなことを言うな!」

 まるで真理のごとき発言にブラウがその辺に落ちていた石を投げる。
 カンダタはひらりとかわしたが、子分その1に見事に直撃した。
 激情する彼とは逆に、ふと、クラムが冷静になる。

「でも調味料を買うってことは、誰か料理作るの?」
「もちろん、お頭が自慢の腕を披露してくださるんだ。
 このエプロンを身に着けてな」

 子分その2がフリフリのエプロンを見せた。
 淡い桃色でポケットにはウサギのアップリケが着いている。

「ちなみにそのエプロンは俺の手作りだ」

 後ろの子分その3が誇らしげに言った。

「うげ…」

 クラムもブラウも思わずひく。
 その姿はあまりにもいただけない。

「あれ、勇者くん…?」

 気付くと、彼女の勇者のが見当たらない。
 きょろきょろ辺りを見渡すと、端で頭を抱えうずくまる影がある。

「うう、マッチョがエプロンで料理を…」

 ストロフィスは精神に痛恨の一撃を受けていた。
 打ちひしがれている彼のことは一先ずおいておいて。

「そういえば…」

 カンダタは辺りを念入りに見回した。

「あの僧侶は、いないのか…?」

 怯え含んだ声で問う。

「ラズのこと?」

 具体的な特徴は出なかったが僧侶というのは1人しかいない。

「ラズはここにはいないけど…」

 あっちにいる、と続けようとして、それをカンダタの安堵に遮られる。

「そうか、いねぇのか。なら、思う存分」
「やる気か…?」
「見逃す気はないんだろ」

 その台詞に勇者一行の3人がお互い目を見合わせる。
 珍しく、心が通じ合ったかのように、相手の考えが解った。
 皆、気持ちは同じだ。

「ううん、もう行くなら好きなだけ行ってよ」
「むしろ、行ってくれ」
「見たくもない」

 端にしゃがむストロフィスが切実に願う。

「あ、胡椒は置いて行ってね」
「ふ…それは出来ねぇ相談だぜ。
 やはり俺様とお前達は戦う運命にあるらしい」
「そんな運命はいらない…」

 変態マッチョ盗賊と胡椒を奪い合う運命なんて。

「確かにこいつがこんなに嫌悪感を出すのは珍しいけど…」

 これはある意味運命の出会いか。

「まぁ、もうそんなことはどうでもいい!かかれ!」

 カンダタの声で、子分たちが武器を振り上げ襲い掛かってくる。

「ほらっ、変態にやられるぞ」

 ブラウがストロフィスを引っ張り上げる。
 彼は仕方なく剣を抜いた。
 この悪夢を終わらせるには、胡椒を早く奪還するしかない。
 そう判断して、子分が振り下ろした斧を剣で凌ぐ。

「スクルト!」

 クラムの防御魔法が皆を包む。
 勢い良く突進してきた子分は面白いほど吹っ飛んだ。

 キン、と金属がぶつかる音が連続して響く。
 カンダタはブラウの鞭と対戦していたが、程なく大剣を絡み取られた。
 慌てて子分を前に出し、伏している者から武器を調達する。
 立ち上がると同時にストロフィスの剣が掠める。
 何度か打ち合い、再びカンダタは減っていく子分たちの後へ下がる。





「ちっ!」

――確実に強くなってやがる。

 カンダタは敵ながら感心した。
 あれから2、3ヶ月しか経っていないというのに。
 子分たちはかなりのペースで地に伏している。

 倒れ行く子分たちを見つめながら、彼は1つの決心をした。
 ここで、やらなければいつやるというのだ。

 彼は…――

 まだ、部下が応戦しているというのに、背中を向けて走り出した。

「あ、勇者くん、変態が逃げちゃうよ!」

 もはや盗賊すら付けず。

「おい、まだ胡椒取り返してないぞ!」

 ブラウの声にストロフィスは対峙していた子分の1人を、剣の柄で殴り倒した。

「待て!」
「言われて待つかよ!」

 そう言ったものの、明らかに詰められている間合いに、カンダタは立ち止まった。
 追いついて来る彼らの方を向いて、洞窟の壁に手を当てる。

「これでも喰らえ!」

 叫びながら何かを操作する仕草をした。
 前回、見事に落とし穴が口を開けたこともあり、3人は思わず足を止めた。
 今回は一体どんな罠が隠されているのだろうか。

 …。
 ……。
 何も起こらない。

 念のため、慎重に2、3歩進む。

「何もないのかよ!!?」

 すっかり騙されたブラウが声を上げた時には、すでにカンダタは暗がりに消えていた。





 洞窟には重い足音が響いていた。
 出口に向かってではなく、フェイントとして奥に向かって走る。
 名づけて「逃げたと見せかけて、嵐が過ぎるのを待とう」作戦。
 追いかけてくる気配もないので、カンダタは速度を落とした。

「ふぅ、まったく、あいつらとはもう会いたくないものだぜ」

 まさにその時。

「あら、あなた…」
「ひぃ!?」

 聞き覚えのある声に情けない声を上げた。
 目の前には1人の僧侶とその後に隠れる2人の男女。
 僧侶の青銀の髪に相変わらずの美しさは、薄暗がりでも際立っていた。
 見間違えようもない、その姿。

 ついでにいえば、裸体にビキニパンツと覆面だけという格好の彼も、際立ち過ぎてはいたが。

「…前にも思ったのだけれど、自らの肉体を誇りたいなら、
 もっと別の方法があるのじゃないかしら」

 気安く、優しい口調で。
 でも、決して隙はない。

「何より、ストロが怯えるから」

 彼女はただ言葉を発した。
 それだけのことで、彼の方は射すくめられたように動けなくなった。
 あの、塔での恐怖がふつふつと甦る。

「勘弁…」
「なら、解っているでしょう?」

 にっこりと微笑む。
 カンダタは何度も頷くと、自分の覆面の中から大きな袋を取り出した。
 ぎっしりと黒胡椒が入っている。
 彼はそれを彼女に差し出すと、悲鳴を上げながら一目散に消え去った。

 自分たちを捕まえた恐ろしい人攫いの、
 情けない後姿にグプタとタニアは唖然としていた。
 闇に消えた彼の姿と傍らの可憐な僧侶を見比べる。
 そしておずおずと尋ねた。

「あの、人攫いと何かあったんですか?」

 彼女はやはり美しく笑った。

「知らなくて、いいことよ」











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