アリアハンの話----------
1話.旅立ちの日B
教会に入った瞬間に彼女を見つける事が出来た。
教会内は今までにないほど人口密度が高い(因みに主に男達だ)。
しかしその中で、その視線が一点に集まっているのだ。
珍しい青銀の長い髪に美人としか言いようがないほど整った顔立ち。
瞳の色は深い赤。
禁欲的な僧侶らしい法衣とは裏腹に、
男の子なら誰でも心を鷲づかみにされそうなほど色っぽい仕草と表情。
こういう人をセクシーギャルというんだろう、とクラムは思った。
勢い良く扉が開いた。
目をやると男の子を引きずった女の子が自分を目掛けてやって来る。
「私に何かご用?」
正面に立った彼らには無用の質問だったかもしれないが、彼女は取り敢えずそんな事を言ってみた。
そこで初めて彼女は引きずられている男の子が、勇者として旅立つというオルテガの息子だと気が付いた。
「あなた、確かストロフィス君…だったかしら?はじめまして、ね?」
「ども。ストロフィスは長いからストロでいいよ」
アリアハンに来れば耳をふさいでも聞こえるほどの有名人の挨拶は、かなり気だるそう。
「あたしはクラム。短いからクラムのままでいいよ」
彼とは反対に、魔法使い風の少女は明るい。
彼女は幾度か礼拝に訪れる姿を目にしている。
彼女は1ヶ月ほど前にこのアリアハンにやって来た。
特に理由はなかった。
まだ、来た事がなかった土地だからというだけで。
ここに来てからはルイーダの酒場に冒険者登録をし、部屋を貸して頂いている教会を手伝いをしていた。
多くの人が、様々な能力を持つ仲間を求める酒場に登録したのは、
僧侶としての能力を必要としてくれる人に出会う為だった。
別に誰も彼女を必要としなければまた、別の土地に旅立つだけの事。
魔物の凶暴化にどんどん国と国の間を行き来する事が少なくなっている昨今、
そうなる事の方が非常に高かった。
しかしながら、その「誰か」は訪れたようだった。
「私はラゼリア。ラズって呼んで」
相手に習って名乗ると、ストロは彼女の頭から爪先までを眺めてから口を開いた。
「ルイーダのところに登録してたろ。一緒にバラモス倒しにいかない?」
「それは、勇者パーティへの勧誘かしら」
まるでお茶に誘うようにさらりと魔王の名を出した彼に問い返す。
「そういうこと」
「ねぇ、一緒に行こうよ。あなたみたいな美人さんとなら楽しく旅が出来そう!」
クラムはうきうきがあふれ出しそうな勢いで彼女の両手を掴んだ。
「構わないわよ。私で良ければ」
断る理由はなかった。
改めて片手を彼らに差し出す。
「よろしくね。ストロ、クラム」
「わーい!やったー!!」
「よろしく」
その手を順に2人が握る。
嬉しそうにするクラムと特に感情の見えないストロ。
当てもなく旅していた自分に今、大きな目標が誕生した。
あと1人くらい仲間を入れるという彼らに付いて彼女は教会を後にした。
クラムはふと、喜ぶのを止めて隣のストロの腕を引っ張る。
「ところで、バラモスって何?」
――未だ人々は魔王の名すら知らない。
僧侶、というのは神に仕える職業。
これは皆当たり前に知っている。
そして、神とはこの地に生きる全ての人の父であり、母であり、
その愛は惜しみなく平等に世界に注がれるという。
ならば、僧侶とは人々を愛するための職業だ。
彼女はそれを養父から教わった。
例えば口先で何かを伝える事も必要だと思う。
でも、やはり体現して初めて本当の意味が解るのだと思う。
世界が平和になれば良いと願う。
これは命題。
だから彼女は、
――魔物がいない世の中ではなく、
人々がひたすらに心穏やかでいられるような世界にしたいと歩む。
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