アリアハンの話----------



1話.旅立ちの日A





 ストロフィスは取り敢えず街の外れにある酒場に向かう。
 大臣に勧められたルイーダの酒場。
 そこは各々能力を持った人々が仲間を求めて集う場所。
 多くの者が自分の能力を求める人を待つところ。
 と言うことになっているが、期間も不明な旅についてくるような物好きはいるかは分からない。

 つい先ほど通った大通りを戻る。
 いくつか道を曲がり酒場が見えたと思ったその時、
 半端な長さの赤い猫っ毛に魔法使いらしい帽子を被せた緑の瞳の少女が視界の端に映った。





 大きな袋を引きずりながら、たらたらやる気なく歩く人影を発見し、彼女は猛ダッシュで通りを駆けた。
 寝癖がそのままの黒髪、いつ欠伸をしても可笑しくない口元に、どことなくぼんやりとした茶色い目。
 言わずと知れたアリアハンの英雄の息子、勇者ストロフィスだ。

「勇者として旅立つストロフィスくんこと勇者く〜ん!」

 そう叫んで勢い良く突撃したら、彼は質の良い石畳の上を10mほど転がってしまった。
 しかし意外に平然と歩き出した。
 慌てて後を追う。

「勇者君、勇者君!覚えてる?あたしの事覚えてる?」
「あー…、えー…っと、クラム、だ」

 彼は何とか記憶の端から搾り出した、と言うように彼女の名前を口にした。
 実は彼女はアリアハンで生まれ育ったが特に彼と親しくした事はなかった。
 正直、一方的に知っていただけだった。
 その為つい先日初めて会話をしたのだ。

「正解!じゃあ、あたしを旅に連れてって、て言うお願いも覚えてる?」

 彼女はその時、彼の旅に一緒に参加させてほしいと頼んでいた。

「…あー、そう言えば。なら、これ。王様からのプレゼント」

 考えるのも面倒臭いと言った感じで、彼は引きずっていた袋をあたしに差し出した。

 そう、彼はアリアハンの勇者としてだけではなくアリアハンの怠け者として有名だった。
 「16歳まで修行するのもめんどい」と5年前に言い放ったらしい言葉は今なお人々の話題に上る。
 けれども勇者である事には変わりなく、彼がこの日にアリアハンを立つ事に否を唱える者は誰もいない。

「何これ?ひのき棒とこん棒?」
「支給された武器」

 ボソッと返された言葉に思わず彼女も呟くように言う。

「財政難なのかな…」
「それはないな。兵士は皆鋼か銅の剣持ってたし」

 意外とよく見ているらしい彼は皮肉とも言える言葉を放つ。
 何だか彼の新しい一面を見た気がした。

 彼女は取り敢えずそこからひのき棒を貰っておいた。
 こん棒は重くて使いにくそうだった。





 街外れの酒場。
 昼間だというのに何だか外とは違う大人の雰囲気を醸し出している。
 奥のカウンターから年齢不詳の派手な美人が、ストロフィスに声を掛けた。

「あら、ストロ。旅立ちの日は今日だったかしら?」
「ああ、そうだ、ルイーダ」

 勇者様はどうやら酒場の女主人ルイーダと顔馴染みらしい。

「どんな仲間をお望みかしら?」

 ルイーダは立てかけてあった名簿を手に取った。
 仲間をここで探したい人は冒険者名簿に登録をしなければいけないというのが
 ルールだと後でクラムはストロフィスから聞いた。

「えーと、能力が高くて、美人で、若くて、優しくて、
 出来れば髪も綺麗な女の僧侶っている?」

 一般的に旅に僧侶は不可欠であるらしい。
 ある意味王道に、しかしながらかなり無理な注文を付ける英雄の息子。
 まずそんな完璧な人はいないだろうけど。

「あ、それと頼り甲斐がある人!」

 しかし、彼女も仲間第一号の特権としてとっても合理的な注文を付け足した。
 ルイーダは名簿に目を落とし…

「それならこの人はどう?」

 一瞬で応えた。

「いるのか?」
「ええ!?本気で!?」

 普通に候補が見つかって焦るクラム。
 彼もも思わず問い返していた。
 ルイーダはそんな自分達に名簿の一行を見せる。

『ラゼリア 女 僧侶 18歳』

「アリアハンに来てからは教会で手伝いをしているはずよ」

 ルイーダの言葉に彼女は心当たりがあった。

「あー!あたし知ってる!あの超美人さん!
 じゃあ、他の人に取られないうちにスカウトしに行こうよ」
「いや、あと1人くらい…」

 彼女はすごくわくわくしてきて、
 他の人も一気に決めようとしていた彼の腕を取り、教会の方へ歩き出した。





 教会へ行く道すがら、視界の端に映る宿の看板。
 彼女が育った家。
 彼女はこの家に生まれなければ、彼の勇者に声を掛ける事はなかっただろう。

 たった一つの国しか知らない自分と違って、多くを見てきたお客さん達。
 覚えきれないほどたくさんの食べた事もない料理。
 想像も付かないような不思議な動物。
 そして、このアリアハンを出なければ決して出会う事のない人々。

 聞くだけでは飽き足らない自分は贅沢者だ。
 独りで外へ飛び出せない自分は臆病者だ。

 けど、きっとこれは自分のために用意された機会だから。
 隣で一緒の風景を共有できる人と巡り会えた事は。

 だからこそ、

――あたしはこの旅を掛け替えのないものにしていけると信じている。






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