アリアハンの話----------
その日「勇者」達は旅立った。
1話.旅立ちの日@
――変な夢を見た。
誰かも知れない奴に俺の性格についてとやかく言われる夢。
「ストロフィス。起きなさい。
今日は王様に旅立ちの許可を貰いに行く日でしょう」
「後10分…」
寝ぼけた頭で何とか絞り出した声にも構わず、彼女は勢い良く布団を剥ぎ取った。
それどころか、ベッドを傾かせて自分の息子を床に叩きつける。
しぶしぶ起き上がる彼の頭には着替えが降って来る。
皆が待ち望んでいた16歳の誕生日だと言うのに、
彼はいつもとまったく同じ起こされ方でアリアハンの朝を迎えたのだった。
「英雄オルテガ」「勇者オルテガ」
彼が何かの行為で、それとも血筋でそう呼ばれるようになったのかも、
彼の息子であるストロフィスは詳しくは知らなかった。
幼い頃より、お前の父は偉大な人だったと抽象的に言われるだけで。
父のようになりなさいと示されるだけで。
1人息子が生まれてすぐに「魔王」とやらを倒しに旅立ったオルテガ。
10年後、死亡の知らせが届いた後も今だアリアハンの英雄として語り継がれている。
しかし、記憶の中の英雄は魔王を倒してはくれない。
結果、期待が一心に向けられたのは彼の息子だ。
英雄の妻はアリアハン王に、夫に代わり息子が魔王を倒すのだと勝手に宣言した。
こつこつと進む度に音がする石の通り。
そして歩きなれた足裏の感触。
あまりにもいつも通りの風景。
家を出て幾度か道を曲がると辿りつくこの大通りは、アリアハンの城下町を2分していた。
屋台と商店で賑わう通りの果てには青空に映える白亜の城。
――相変わらず城遠いし、こんな日まで面倒臭い。
仮にも亡き英雄の意志を継いで旅立とうというらしい日まで、
何でわざわざ本人が出向かなくては行けないんだろうか。
城が自分の家に来いとは言わない。
しかし、今日という日くらいは王が自ら出向くくらいしても良いんじゃないか。
そんな事を考えている間に彼は結局自らの足で城の門をくぐっていた。
「よくぞ参った、ストロフィスよ」
謁見の間に入ると、白いひげを蓄えたアリアハン王が彼の名と呼んだ。
彼は一応それらしく深く一礼する。
謁見に来た理由など言う必要はない。
この日はとうの昔から決められていたのだから。
「未だ人々は魔王バラモスの名前すら知らない…」
王は語りモードに入った。
「しかし、魔王がこの世に現れたとひそかに伝えられて15年…
魔物は増え、海も荒れるばかり。
このまま手をこまねいている訳にはいかぬ」
王はそこでばさっとマントを翻すと高らかに告げる。
「よって、亡きオルテガに代わってお主に魔王討伐を命ずる!
バラモスを倒し、アリアハンの名を轟かせよ!そして世界に平和を!」
一気に言い終え、王は軽く台詞の余韻に浸ると話を大臣に引き継いだ。
更に数分ほど大臣に激励されて、旅の資金と仲間のための装備を渡された。
「オルテガの二の舞にならないように、
ルイーダの酒場で仲間を見つけるが良かろう」
ルイーダの酒場というのは冒険者同士のコミュニティの中心となっている場所だ。
彼の英雄はどうやら最後まで一人旅だったらしい。
ああ、それなりにこの人らも学習したんだ…
とストロフィスが思った矢先に渡された装備はひのき棒とこん棒。
――魔王を倒そうって言う仲間たちはひのき棒(売値3G)も持っていないんスか?
続いて資金を数えてみると、何とその金額50G。
――学習してこれってことは、ひょっとして親父、無一文で旅立たされた?
彼はこの時初めて、顔も覚えていない英雄オルテガに同情した。
「勇者」というものを人々はどう描くのだろう。
単純に考えればそれは勇気ある者、魔王を倒す者。
彼をあまり知らない人間は、例えば彼を叱咤激励し、例えば彼に同情をかける。
それは世界を背負う責任と、その重さに向けて。
ではその重さというものは一体どれほどのものなのだろうか。
世界の重さ何て本質は意外と軽いものかもしれないというのに。
ただ抱く、漠然とした不安や使命感。
彼らの感じるその感情は魔王を倒したら消えるようなものなのだろうか。
誰も知らない父の「勇者」像を引き継ぐ事はできない。
でも、特にやりたい事もない彼にはその「職」を継がない理由もなかった。
自ら選ばなくても、やらなければいけない事があるというのはある意味楽なのだ。
彼が思うに皆の求める「勇者」とは、
生き残って世界中から賞賛を浴るか、
魔物の牙で息絶えて皆に語られるだけの存在になるかの
絶対的な二択を迫られる者である。
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