恋人遊び 8
花言葉。
植物に付けられた象徴的な意味。
花を贈り物にする時なんかは、自分の想いを込めたり出来て便利なキーワード。
占いなんかに使ったりもする。
けれども。
知らずに飾っていたら、がっかりする事になりかねない
知らずに贈ってしまうと、気まずい事にもなりかねない。
知らずに好き何て公言すると、人間性を疑われる事になりかねない。
例えば。
紅の薔薇「情熱」。
赤のチューリップ「愛の告白」。
うっかりこう言った花を贈ってしまえば告白とも受け取られかねない。
ロベリア「悪意」。
リンドウ「悲しんでいる貴方が好き」。
こんなの解って贈った日にはとんだいじめやドS宣言。
ハナズオウ「裏切りがもたらす死」。
スノードロップの「あなたの死を望みます」。
これに至ってはもう本格ミステリで使用される死亡フラグだ。
花言葉なんて知ってしまってはおちおち花も受け取れない。
帰宅途中ばったりと年下のいとこに遭遇した。
しまった、と言ったような表情を浮かべた彼の手には大きなバラの花束。
愛らしい桃色や白でまとめられたそれは、ちょっとお値段が張りそうだった。
はっはーん、と芝居がかった調子で爽やかではない笑みを浮かべる。
「悪い女に引っ掛かったわね」
一度言ってみたかった台詞だった。
ちょっとした達成感を勝手に得た私に、いとこは怪訝な色を浮かべる。
「は?何の事?」
「いや、何となく薔薇を強請るような女は余程自分に自信があるか、
よほどの天然かどっちかかなと思っただけ」
薔薇は綺麗だが、何となく綺麗過ぎて自分に相応しい!みたいにはなかなか思えないものだろう。
花言葉も色や種類や咲き方などで様々あるが、愛や美に関連した物が多い。
贈る側受取る側で深読みし過ぎて誤解も招きそうだ。
意図せず受取る側が愛されてる!みたいな花言葉だったら、その後泥沼である。
「何で強請られてる前提なの」
怪訝な目で見て来るいとこに、私は持論を展開する。
「取り敢えず女なら薔薇を上げとけば良いってちょっと発想単純じゃない?」
「……」
珍しく何も言い返さず、少し何か考えたあと彼は質問を変えた。
「ちなみに何の花が好きなの?」
「ツツジ」
即答した私にいとこは首を傾げる。
「つつじ?つつじってどんな花だっけ?」
「あれ、ほら、小学校に行く道とかに春に咲いてる奴」
「咲いてる奴って言われても」
他に説明の仕方が思い付かず、とりあえず他に咲いている場所を思い返す。
「分離帯のとことかに。ピンクとか白とか赤っぽいのとか咲いてるじゃん」
「え、あの植木?」
植木。
確かに花が咲いてない居ない時はただの緑の葉っぱである。
「あれだって花咲くでしょ。千切って、よく蜜吸ったわよね」
「…ひょっとして、好きな理由、甘いから?」
「それが理由で何が悪いの?」
それ以外にも一応、華やかだけど庶民的な所も気に入っている。
桜程のイメージはないが、開花の時期は鮮やかな色でいっぱいになるのだ。
「その歳になっても花より団子…」
「ちょっと、何が不満なのよ」
彼はしばし項垂れながら盛大な溜息を吐いていたが、その言葉でようやく顔を上げた。
「来年からはお菓子にするよ」
は?と訊き返す前にバサッと音を立てて強い香りが翻る。
目の前には愛らしい、桃色純白。
「誕生日おめでとー。
発想が単純な従弟からのプレゼントでーす」
完全な棒読みだった。
確かに今日は自分の誕生日だった。
つい先ほども誕生日祝いと言う事で友達に奢ってもらったスイーツバイキングを楽しんできた所だった。
花より、団子。
言われた言葉が蘇る。
「……どうも」
さすがにちょっとやっちゃった感を味わいつつ、半眼で差し出された高貴な花束を受け取った。
ついでに後日調べるとツツジの花言葉は「自制心」だった。
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