彼女流聖夜
あるとき立ち寄った街。
薄く積もった雪が街を白銀に包んでいた。
ここでは毎年この雪の降る時季に聖人を讃える祭りが行われるという。
今日この街を訪れ宿に腰を落ち着けた彼女は、ついこの間一緒に旅をし始めた彼の隣で何やらに荷を探っていた。
やがて嬉しげに何かを取り出すとベッドの端にそれを結びつける――靴下だった。
「何をやってる?」
その見慣れぬ光景に彼は不審そうに口を開いた。
「あのね、この靴下を下げておくと、良い子には翌朝プレゼントが入ってるんだって」
にこにこと話す彼女と靴下を見比べて、彼は再び質問した。
「それに?」
「うん。これに」
何の迷いも躊躇いもなく彼女は靴下に身を寄せる。
「何がほしいんだ?」
あくまで平静に彼は彼女に問う。
彼女は良く訊いてくれたというように、晴れやかに口を開く。
「ケーキ!向かいのお菓子屋さんに並んでいたの、全種類食べたいの!」
彼はやはりもう1度靴下を見た。
そして鮮やかな色の果実のジャムと柔らかなクリームがたっぷり載ったケーキが、目の前の靴下に突っ込まれているところが脳裏に過ぎる。
「その靴下に入ったケーキを食うのか…」
彼のこぼした言葉を聞いて、彼女ははっと驚愕にも似た表情で靴下を見やった。
しばらくその体勢で彼女がぽつりと呟いた。
「靴下…1つじゃ入りきらない…!?」
こうして聖夜は更けていく。
ちなみに翌朝、靴下にはもちろん何も入っていなかった。
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