ガラスの部屋


 そこはガラスの部屋だった。
 部屋というよりも箱と呼ぶ方が近いかもしれない。
 それは色のないキューブだった。


 そこに彼女は座っていた。
 角に収まるように三角座り。
 自分の膝に顔を埋めじっと動かず息を潜めている。


 部屋の内側はひび割れだらけだ。
 くもの巣のような模様が部屋を包んでいる。
 そして彼女の回り、部屋中にガラスの破片が落ちている。
 もし歩き回れば彼女の裸足など、簡単に赤く染まるだろう。


 しばらく時が経ち。
 彼女を呼ぶ声がする。
 顔を上げるとガラスの向こうで誰かが手を振った。

――こっちへおいでよ。

 その人は手招きする。

――そんなところへ出る前に、私が怪我をしてしまうじゃないか。

 彼女は聞こえないよう耳をふさいで、顔を伏せた。


 しばらく時が経ち。
 彼女を呼ぶ声がする。
 顔を上げるとガラスの向こうで誰かが手にホウキを持っている。

――危ないから掃いてあげるよ。

 その人は端からガラスを取り除こうとする。

――何をするの。勝手に捨てないでちょうだい。

 彼女は忌々しげに口にすると、顔を伏せた。


 しばらく時が経ち。
 彼女を呼ぶ声がする。
 顔を上げると目の前に赤い足が見えた。

――ここまで来てしまったよ。

 その人ははにかむと彼女に手を差し出した。

――私の部屋をこんなに汚すなんて。

 彼女は自分の元へ続く血の跡を見て毒づくと、その手をとった。



 立ち上がった時にガラスが足に刺さったが、もう気にはしなかった。






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