秘めた恋
その少女は恋をしていた。
森に囲まれた村の少女だった。
とても美しい少女だった。
村の男達から交際を求められる事も少なくなかったが、
彼女はその度に同じ台詞を口にした。
「わたしには好きな人がいるのです」
誰もがその対象者が誰かと問い、
けれども彼女はそれだけは決して口にしなかった。
その為、彼女の想い人が本当に存在するのかと疑問視する者もいた。
けれども彼女の想う者は実在した。
彼女は間違いなく恋をしていた。
彼女自身も周りの子達と一緒になって恋の話に花を咲かせてみたかった。
それでも、彼女は決して自分の話をしなかった。
それは秘密の恋だった。
決して言ってはいけなかった。
身分違いの者ではない。
もしくは妻帯者である訳ではもない。
彼女の想い人は、知られてはいけない者だった。
想い人は森に居た。
それが人なのか魔物なのか。
惹かれる彼女自身すら知らないその者。
彼は森深くにひっそりと身を潜め生きていた。
見た目は美しいとは言い難く、肌の色も人ではありえない。
言葉を話す事もない生き物。
人と共存出来るのかすら定かではないその異形の者に彼女は心奪われた。
時折森に出かけては、彼女は彼の下に向かう。
そしてただ静かに横に寄り添うのだ。
危害を加えられる事もない。
言葉を掛けられる事もない。
その静かな空気が、彼女は大好きだった。
彼女は彼の事を誰にも話さなかった。
しかしそれは決して恥ずかしいと思っていた為ではない。
彼の存在を自らが話せば、排他的な村人達は驚くだろう。
そして化け物として退治されるか、大きな街へ見世物にされてしまうだろう。
彼女は彼を想えばこそ、その恋心を口にする事は許されなかった。
きっと永遠に自分の想いを村の人々が知る事はない。
彼女はそう考えていた。
ある時、彼女は村を留守にした。
たった数日間の事だった。
しかし村へ戻った彼女に、驚くべき知らせが届いた。
森の化け物が広場で晒されている。
彼女は村の広場へと走った。
無残な姿にされた彼がそこにいた。
目を見開き、傍に寄ろうとする。
次々に化け物を倒したのは自分だと群がる男達を掻き分けた。
そして吊るされた「化け物」に抱き付いた。
人々が唖然とするなか、彼女は微笑みを浮かべていた。
「わたしが好きなのはこの人です」
隠す必要が無くなって。
彼女はこの時初めて、秘め続けた恋心を口に出来た。
あとがき:何の捻りもなく、こういう夢を見た第2弾。
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