ゴミの街



 ここにはいらないものが捨てられる。



 壊れた機械。
 薄くなった布団。
 擦り切れた本。
 車輪のない自転車。
 流行の過ぎた玩具。
 食べ飽きられた缶詰。

 そして、いらなくなった人間。



 ここはいらないもので出来た街。





 大きな街から大きなトラックが来て、大量のゴミを捨てていった。
 そのトラックの轍を辿りながら、旅の少年はその場所を見渡す。
 足元にはゴミと呼ばれるもの。
 見上げた先にはゴミと呼ばれるもの。
 ありとあらゆるものが積み重ねられ、パイのように層を成している。



 ここに訪れたいと言った時、大きな街の住人は言った。

「あそこはゴミの街だから、物も者も、いらないものしかないよ」

 だから行っても無駄だと。



 道ともゴミとも呼べるところを躓かないように歩く。
 ふと、気配を感じて立ち止まる。
 自分の足が踏もうとしていた地点に小さな手が現れた。
 少年よりもずっと幼い子が、何かを拾っている。
 少年は何を拾っているのかと訊ねた。

「目覚まし時計だよ」

 それは確かにオーソドックスな目覚まし時計。
 ただ、短針しかない。

「別のから持って来れば問題ないもん」

 なるほど、これだけの廃棄物の中なら短針の1本や2本や500本くらいはあるだろう。
 根気良く捜せば、大抵のものは揃えることが出来そうだ。

「他にも、新しいゲーム機を見つけたんだ。ソフトもたくさん!」

 それに、と嬉しそうに続ける。

「僕はここで、優しいお母さんと出会ったんだ」

――物も者も。

 大きな街の住人の言葉が脳裏を過ぎる。
 そして、目の前の誇らしげな幼子の顔。

「ほしいものは何でもある。ここはタカラの街だよ」

 求めれば、タカラになる。





 ここでは、すべてが手に入る。






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