――とある学園のなんでもない日。
そんな学園一コマ@
ユーザ帝国より海を越えた西に位置するアルフガナ王国。
その王国設立の魔法使い養成学校リヴァーサルド学園。
その学園の授業と授業の合間の休憩時間。
教室内の生徒達は各々、予習復習を行ったり、持ち込んだお菓子で空腹を満たしたりしている。
そんな中、雑談に興じる女子生徒達が固まっていた。
どうやらその中の1人にこの度恋人が出来たようで、恋愛話に花を咲かせているらしい。
わざわざ集まった訳ではないが席が近かった為、
普段は独りで本を読んでいる事が多いシャレオ・レマージュも自然とその輪に入っていた。
恋人への惚気が終わった後、話題は各々の異性の好みへ発展している。
「やっぱり優しい人が好き。
顔ももちろん格好いい人がいいけど〜」
「私は強い人!出来れば魔法が使える人が良いわ」
それぞれ自由に理想の男性像を口にしていたが、まだ口を開いていなかった彼女にも質問が飛んだ。
「シャレオは?どんな人が好み?」
文武両道な上、美少女と言って問題のない容姿のシャレオ。
その質問には集まっていた女子だけではなく、教室内の男子が思わず聞き耳を立てた。
「うーん…。背が高くて、頭が良くて、すごく強くて」
悩んだ素振りをした割にはすらすらと並べられて行く条件。
その時点で真剣に聞いていた男子の何人かが肩を落とした。
彼女が言う「頭の良さ」と「すごい強さ」を持ち合わせている自信などないのだろう。
そしてトドメの様に続ける。
「年上で大人の色気のある、赤毛の人、かしら」
言い終わった時点で、教室のそこかしらで溜息が聞こえた。
中には本気でがっかりしている者もいる。
「年上好きかぁ〜!」
「赤毛って、すごく限定的ね」
「頭も良くて強くて色気があるなんて完璧な人、なかなか居なさそう」
予想以上に具体的な男性像が出てきて、質問を振った女生徒達も興味深そうだった。
「あ、でもこの間ユーザから見学に来ていた神官の人!
あの人とかぴったりじゃない!?」
「ええっと、アストライア神官のウェルストさん、だったわよね!」
慣れてきた学園生活に突然現れた外国からの来訪者は記憶に新しい。
「……そうね。あの方とても素敵だと思ったわ」
ほんの少し目を泳がせた後、彼女ははっきりと言い切った。
「すごく格好良かったわよね〜!また来てくれないかなぁ」
そこからしばらくは謎めいた赤毛の美青年の話題でわいわいと盛り上がったものの、女子の話題は移ろいやすい物。
いつの間にか主題は王都で流行中の香水へと変化し、同時に男子達の興味も一斉に薄れて行った。
その女子集団の斜め後ろの席。
聞き耳を立てなくても会話の内容が丸聞こえだったゼア・ラティカル。
「理想とぴったり」と言われていた他国から来た神官こそまさに彼女の想い人だ。
――思いっきり本命の話をしていたな。
シャレオが好みの範疇外な彼にとっては、正直それくらいの感想しか抱かなかった。
視線は手元の教科書の文章を追ったまま。
しかし、意気消沈している級友達に多少の同情くらいはしている。
皆まだ15、6歳。
好きな子のほんの少しの言動で一喜一憂する年頃なのだ。
ふと脳裏に浮かんだのは、その中でも筆頭であろう、悪友のレアト・ロート。
熱心な信奉者と言っていいだろうレアトは、さぞ落ち込んでいるだろうと思って顔を上げた。
「うあっ」
結構離れた席のはずのレアトが目の前にいた。
「びっくりするだろ…」
「ゼア…」
間近から思い詰めた顔でこちらを見ている。
あまりにも真剣なので、慰めの言葉の1つでも掛けようか一瞬悩んだ。
――年上になることは無理でも、あと10年くらいしたら何とか色気くらい出るかもとか…。
――いっそ、シャレオ以外にも可愛い女はいるとか…。
そんな彼の思考など知らないレアトは、その真面目な顔のまま口を開いた。
「どうしたら、髪って赤くなる?」
そう聞いてきた彼の瞳はとても真っ直ぐだった。
憂いも悲しみも存在しない、彼は未来を見つめている。
「……お前、さっきの話聞いて、
それさえ達成したらどうにかなると思ったのかよ…」
思わず机に項垂れる。
うっかり、悪友の鋼のごとき精神の強さを尊敬しそうになった。
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