リクエスト小説----------
頑張ったのは、認めるよ。
真夏の凍傷
ギラギラと照りつける日差し。
まとわり付くような熱気。
その日はとても暑かった。
「あっついな…」
飛んで来た魔物を剣で打ち据え、アリアハンの勇者が呟いた。
今、彼ら4人は、遮る物がない平原で魔物の群れを迎え撃っていた。
この辺りは現在夏。
じっとしていても暑いというのに、こう動き回っていては暑さも倍増する。
しかも相手は痺れアゲハやフライキャットなど、ひらひらと飛びまくる飛行系の魔物ばかり。
「ああ、うっとおしい」
毒吐いたのは攻撃を避けた魔物に対して。
少し視線を動かすと、同じように魔物を仕留めそこなった盗賊が同じようにイラついていた。
普段冷静な僧侶ですら魔法が多少荒い気がする。
いろんな意味で皆焦燥していた。
そんな状況を打破するべく、赤い髪を揺らして、魔法使いの少女が声を上げた。
「そんな勇者くんのために、あたし頑張ったの!」
勇者くんのため、という言葉にはあえて触れなかった。
なんだかそれっぽいポーズで彼女は魔物の前に立ちはだかる。
「涼しくて強力!見て、あたしの新魔法!」
新調した杖をかざし、高らかに叫んだ。
「…ヒャド!!」
唱えられたのはいつもの炎ではなく、氷の呪文。
「いっ、え!?」
「ちょっ…!?はぁ!?」
「あ、え、嘘!?」
ストロフィスが目を点にし、ブラウが意味が解らないという風に声を上げ、ラゼリアが戸惑いを顕わにした。
彼らが一斉に目を向けたのは、自分たちの足元。
そして、その大地。
最後にクラムが驚愕の悲鳴を上げた。
「足くっついてる〜!!!」
見事なまでに、大地もろとも4人の足が凍りついていた。
「くっついてる、じゃねぇ!お前のせいだろうが、お前の!!」
「でも、魔法的にはばっちりだし!」
「ばっちり、じゃねぇ!」
ブラウの怒鳴り声はしかし、クラムの方を向いては発せられなかった。
凍りついた両足は、真後ろにいる彼女の方に顔を向けることすら難しくさせている。
確かにばっちりくっついてはいた。
「冷たいよ〜」
「だからお前のせい…うおわぁ!?」
大地にはびっしりと氷が張っているが、上空にはまったく影響はない。
飛行系の魔物たちは、彼らを馬鹿にするようにかすめ飛ぶ。
そして、彼らは両足を縛られるというハンディキャップを背負っての戦闘を強いられることになった。
しかも暑い日差しとは裏腹に、膝までは0度の氷である。
このギャップをどういう感覚で埋めればいいのか。
それに、その戸惑いを魔物たちが見逃してくれるはずもない。
「伏せて」
「無理!!」
突然のラゼリアの忠告に、ブラウは絶望的な言葉を吐きながらも従った。
急下降してきたキャットフライが彼女の真空で吹っ飛ばされる。
両足固定のままそれを避けた彼は、氷上で見事なブリッジ状態だ。
「何で、ヒャドでこんなことに…」
腹筋で何とか起き上がり疲労感そのままに呟いた。
引っ張っても押しても開放を許さない強力な氷。
この威力はヒャドの上級呪文、ヒャダルコか下手をすればヒャダインだ。
それにしたってきっとこんな風にはならないだろうが。
「制御が出来てないのかも知れないわね」
「制御?」
「クラム、炎の呪文にこだわって、まったく氷の呪文は使っていなかったでしょ?
でも魔法使いとしてのレベルは確実に上がっていて、
本当ならもっと強い魔法が使えるのよ」
ラゼリアの声音が冷静に分析した。
しかし、原因が解ったところで、氷付けのこの状況を打破できる訳ではない。
彼女の繊細な真空魔法をもっても、この氷だけを器用に砕くことは出来ないだろう。
「完全に暴走だな」
「ちゃんとまとまっていれば、
それに対象を間違わなければ強力な攻撃魔法になりそうなんだけどね…」
空中の魔物に氷をぶつけるはずが、大地を氷付けにしてしまっている。
恐らく涼しくしたいという思いが、間違った方向へ放たれたのだ。
「冷たすぎて痛い…」
突然、その存在を思い出させるようにストロフィスが呟いた。
それは誰もが認識していたが、それどころじゃなかった台詞。
「陽射しがあるから溶けるだろうけど…こりゃシモヤケ確定だな」
彼の言葉を受けてブラウがため息を吐く。
吐きながら鞭で叩き落した痺れアゲハが氷の上を滑った。
滑ったものが、氷から足を引き剥がそうとしているクラムの足元にぶつかった。
そして、その赤い顔を彼女の方に向けていた。
何故、そこから連想されたのかは彼女にしか解らないが、
彼女は何かをひらめいてジャンプ――実際にはしようと――した。
「そうだ!勇者くん、待ってて!!」
彼女は何でこんなことに気付かなかったのだろう、と言わんばかりの満面の笑みを浮かべている。
そして、思いついたことを実行した。
「メラ!」
氷を溶かすには熱が必要。
熱を発するものの代表は火。
そして、彼女はその火を作り出すだけの力を持っていた。
だから、その行動はある意味自然だったのかもしれない。
彼女は火炎の呪文を唱えた。
そしてその火炎は、なんの躊躇いもなく氷を無視し――ストロフィス自身に直撃した。
彼は声を上げなかった。
ただ、もしその時彼の表情を見られたのなら、
何となくそれを予期していたような悲しげなものだっただろう。
煙がもうもうと上がり、それが晴れたとき、そこには――
煤けたストロフィスがひっくり返っていた。
ただしやっぱり両足は地面に固定されたまま…
「きゃあ、勇者くん!」
「この馬鹿!」
クラムの悲鳴とブラウの怒声が同時に上がった。
それから数十分後。
湿った大地を残し、厚い氷は陽射しに溶け切った。
足の裏のかゆみに耐えながら、とりあえず彼女はしばらくヒャドは使わないと約束した。
サトさんから1周年企画のリクエスト頂きました「クラムの魔法」でお話でした。
長いことお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。
なんだか半端になってしまいましたが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
dq3top